森になる建築

01⼈と建築の関係をつなぎなおす

日本建築は伝統的に木材や土などの自然由来の素材で構成されてきました。建築は手入れをしながら長く大切に使い続けられ、解体されても土に還るか、再利用されることで自然の循環に組み込まれていました。
こうした循環を支えていたのは、人と建築の関係性でした。1,300年以上の歴史を持つ法隆寺は、柱や梁などの部材を人々が代々補修し続けることで維持されてきました。建築は人が手入れをしながら大切に使い続けるという関係性の上に成り立っていたのです。しかし現代では、こうした関係性が希薄になり、手入れよりも建て替えが選ばれることが多くなっています。
また近代以降、建築は鉄やコンクリート、ガラス、プラスチックなど多様な素材を複合的に組み合わせ、高い機能性と耐久性を追求してきました。その結果、解体時には複合素材の分離が困難でリサイクルが難しく、大量の廃棄物として環境に負荷をかけています。
こうした背景から、地球の循環システムと調和し、人との関係性を取り戻した新しい建築のあり方が考えられます。

⼈の⼿が⼊らないと森に還ってしまう
⽩川郷の建築

茅が分解され、そこに種が舞い込んで
芽が⽣える

つくる・つかう・もりになる9つのプロセス


閉幕直後の様子、植物が育ち、徐々に森に還る

02森になる建築

私たちは大阪・関西万博で建築の「終わり」について考えました。たった半年でごみになる建築ではなく、自然に還り、やがて森になる建築をつくることはできないか。そんな思いへの共感が大きく繋がって、小さな休憩所として「森になる建築」は万博会場に実現しました。
日本の古い民家や動物の巣のように、地球の循環の中に組み込まれた建築。この当たり前の営みを最新技術と伝統技術という対照的な工法を組み合わせることで体現しようと考えました。構造体は生分解する木材由来の樹脂を採用し、現地で3Dプリントすることで単一素材の構造を成立させました。一方、外装材は誰でもつくれる耐久性の低い手漉き和紙を採用し、そこに植物の種を漉きこみ、みんなで手間暇かけて手貼りしました。
金継ぎや襤褸のように、ものを大切に手入れすることで長持ちさせる日本の伝統文化に倣い、新しい技術でしか出来ない建築にも人が関わる喜びを加えました。紙は構造体を紫外線から守る役割があるものの、それ自体がとても弱い素材のため、頻繁な手入れが欠かせません。4月の開幕以降、和紙から芽吹いた植物が育ち、紙は徐々に破れ、ほころび、やがて昆虫や鳥が集まるようになりました。自然に還ろうとする建築をなんとか引き止め、会期中に「建築」であり続けてもらうための手入れが閉幕まで続きました。時間と共に劣化して捨てられる建築ではなく、人の愛着と時間が建築を育て、最後は惜しまれながら朽ちていく。そんな建築を万博で実現したいと考えたのです。

トラス状の構造断⾯が筋のように現れ、植物の幹や実の中にいるような内部空間

草花は和紙の中の種から発芽させ、樹⽊は種が⼤きいので2年前から育てておいた苗を植えた
(2025年5⽉頃撮影)

03⽣分解性樹脂 × 3Dプリントの
可能性

森になる建築の構造体に採用した酢酸セルロースは、開発当初、3Dプリントの実績が家具程度の小さなサイズしかなく、建築スケールでの適用は前例のない挑戦でした。素材メーカー、3Dプリント技術者、建築家など、さまざまな専門家の知恵を結集し、約4年半の試行錯誤を重ねて実現しました。
酢酸セルロースは引張強度が小さく脆性的な破壊挙動を示すため、熱融解型の3Dプリンターで一筆書きのように連続造形し、接合部のない形状としました。酢酸セルロースの3Dプリントは加熱温度が約200度と比較的低いため、金属系3Dプリントと比較してエネルギー使用量を抑えることができます。
現地で24時間運転、約3週間かけて構築した3Dプリントによる構造体は、酢酸セルロース造の建築物として建築確認を取得しました。この建築は「生分解性樹脂を一体造形した世界最大の3Dプリント建築」としてギネス世界記録™に認定されました。

2024年8⽉、世界最⼤の純3Dプリント建築の現地造形


トラス状の構造断⾯

2024年3⽉、初めて超⼤型3Dプリントに
成功したときの様⼦

地域で発生した再利用がむずかしい木材資源


3Dプリンタによる木仕口の接合イメージ(生成AIによる参考イメージ)

04新たな可能性へ

酢酸セルロースと3Dプリント技術の組み合わせは、建築の未来に多くの可能性をもたらします。

地域資源の循環と多品種少量生産の強み
この技術が今後さらに発展することで、様々な可能性が拡がっていきます。
例えば、線材として使える木材はそのまま利用できるよう、3Dプリントによって接合部をつくることで、新たな架構を構築する方法も考えられます。ほかにも、多品種少量生産が可能な3Dプリント技術においては、歪みのある既存建物への耐震補強など、複雑さを伴う部位における一品生産が可能となります。
地域で発生した再利用が難しい木材資源をセルロース化し、その場で3D プリントして建築をつくる、新しいカタチの地産地消が実現できるかもしれません。災害時には、仮設住宅に再利用することで、廃棄物削減と住宅供給を両立することなど、可能性は拡がります。
建設産業全体の構造変革を見据えた大規模な技術開発が進行し、3Dプリント技術も急速に発達・拡張していく一方、これまでの建築部材の流通性や汎用性を担保することも同様に欠かせない視点です。特殊技能に依存しない方法が模索される昨今において、3Dプリント技術を活用することも考えられます。

「森になる建築」で培われた技術は、持続可能な建築のあり方を根本から変える可能性を秘めています。

山﨑 篤史
(設計部)

大石 幸奈
(設計部)

濱田 明俊
(設計部)