免震技術が拓く
既存建物活用の可能性
01免震技術が拓く既存建物活用の可能性
既存の建築物や土木構築物には、従来見過ごされてきた潜在的な多くの価値が眠っています。ニーズの高まる建物の長期有効活用計画に際し、設計者が既存の持つポテンシャルを丁寧に読み解き、新たな付加価値を顕在化・最大化させることは、今後の社会課題への向き合い方の一端を担うと考えます。
当社はこれまで、既存の建物や立地が持つ固有の特性を再解釈し、新しい価値を付与して再生する空間創造に挑戦してきました。一方、こうした取り組みの積極的な水平展開や拡張に際し、既存構造物の健全性確認が大きな課題となります。調査範囲の限定性、資料の不確実性、隠蔽部の不可視性などのリスクを、建築主と共有した取り組み判断が必要となりますが、その際、先端的な免震技術の導入が、「活かせる既存躯体」の最大化・最適化への可能性を高めます。
具体的な事例を通して、当社の高い免震技術をベースにした創造的なアプローチを紹介します。
既存建物を⼀部減築して増築する

オフィス:短⼯期・容積割増で競争⼒を⾼める
既存建物を使いながら、上に載せる

学校:使いながら教室⾯積を増床
既存のインフラに挿⼊する

ホテル:振動を低減して⾼架下に建築

新旧建物⽐較

解体・既存活⽤・新築範囲

既存の柱に鉄筋コンクリートを増し打ちして補強する

免震層を介して既存躯体の上部に新築(増築)する
02既存建物を一部減築して増築する

オフィス:短⼯期・容積割増で競争⼒を⾼める
中央日土地博多駅前ビルは、博多駅前エリアの都市機能向上を目的とした容積率規制緩和を活用し、築40年の既存ビルに中間階免震システムを導入した増築プロジェクトです。
通常の新築・既存躯体の部分的補強利用+増築・既存躯体の全面補強利用+増築の3案のうち、コスト・工期・事業性・環境貢献を総合的に判断して既存躯体の部分的補強利用+中間階免震を介した増築を採用し、増床と建築的な魅力付加を実現しました。
既存建物を最大限に活かすため、地上3階以上を解体後、地下3階から地上2階までの既存躯体を補強し、2階柱頭レベルに免震層を設置して13階建ての新築部を構築するという技術的な挑戦が行われています。鉄筋コンクリート造だった高層部を鉄筋コンクリート造と鉄骨造の混構造で新築し、低層部の既存躯体は耐力壁付きラーメン構造から純ラーメン構造に変更することで、全体重量の軽量化を図り、構造的な増床の余地を生み出しました。併せて中間階免震および低層部に配置した制振ダンパーにより、既存部・新築部に入力される地震エネルギーを吸収し、最高水準の耐震性能を付与しています。
結果として、従来の新築ビルを上回る安全性の確保と、無柱空間の最大化(既存25m×20m→37m×17.5m)を両立した、競争力の高いオフィスに再生し、今後の都市更新手法の新たな可能性を生み出しました。
03既存建物を使いながら、
上に載せる

学校:使いながら教室⾯積を増床
海城学園校舎は、中間層免震技術を用いた既存建物の増築プロジェクトです。教育活動を継続しながら工事が可能な計画とすることで、都市部における建物更新の新たな解決策を示した先進的な事例です。
本計画の最大の特徴は、既存建物(鉄筋コンクリート造・4階)の上に免震層を設け、さらにその上に増築(鉄骨造・3階)することで、既存建物を残しつつ地上8階の建物として再生した点にあります。通常、既存建物への増築は重量増加により耐震性能が低下するというジレンマを抱えますが、中間層免震技術の採用により、この相反する課題を解決しています。
具体的には、既存建物の外側に補強フレームとなる基礎および柱梁を増設して既存建物と一体化させ、補強柱の柱頭部分に22基の免震装置を設置し、その上部にロングスパンの鉄骨梁を配置して増築部分を支持しています。免震装置を介して、補強フレームが増築建物の鉛直荷重を直接地盤に流し、併せて増築建物が既存建物に対してマスダンパーとして作用します。その結果、既存建物への地震力がほとんど増加せず、補強が不要となり、教育活動を継続しながらの増築を実現しました。


東⽴⾯図

⾼架列柱に設置された基礎梁及び吊り免振構造

吊り免振機構全体モデルと吊り部詳細モデル
04既存のインフラに挿入する

ホテル:振動を低減して⾼架下に建築
JR舞浜駅高架下に位置するホテルドリームゲート舞浜アネックスは、2004年に竣工した既存ホテルの別館として計画されました。
高架下に建築することで生じる、鉄道の振動や騒音といった固有の課題に対して、JR東日本と竹中工務店が共同開発した新技術である「吊り免振工法」を採用しました。この工法により、高架橋の耐震性に影響を及ぼすことなく、列車通過時の騒音振動と地震動の影響を大幅に低減し、客室としての環境性能を確保しています。具体的には、吊り免振装置を介して建物基礎梁を吊り下げることで、電車振動(固体伝搬音)を遮断し、吊り下げた基礎梁上に鉄筋コンクリート造の建物を作ることで、電車騒音(空気伝搬音)も遮断し、静穏な客室環境を実現しました。
この防振効果を高めた基礎免振技術は、高架下の未利用空間を活用する新たな手法として鉄道技術展(2015年)に出展し、多数の鉄道関連会社様から反響がありました。
05おわりに
建設業における労働力不足や物価上昇、カーボンニュートラルの取組を含む地球環境保護という社会背景を踏まえ、既存建物やインフラを長期間活用したいというニーズが高まっています。当社は新築以外の選択肢として、培ってきた技術力を活かし、既存建物活用の新たなアプローチを探究しています。その中で、免震化を伴う増築手法は単なるリノベーションの枠を超えた価値創出の存建物利用に関わる技術開発は今後ますます重要性を増して可能性を秘めています。
持続可能な社会の実現に向け、既存建物活用に関わる技術開発は今後ますます重要性を増していくでしょう。私たちは、こうした技術開発への取り組みと併せ、蓄積された技術力を新たな視点とアイデアで有効に活用しながら、未来の都市環境づくりに貢献していきます。