What on Earth is Mobility ?

移動手段は急速に変化し、まちのありかたを変え始めている。まちの様々な情報とその使い方・持ち方がますます重要なものとなる。モビリティの力で変化するまちの姿について、建築とデータの視点から考える。

01モビリティの変化とまち

移動手段の変化
近年、移動手段に大きな変化が訪れている。「パーソナルモビリティ」と呼ばれる1人用の乗り物が移動困難な人をアシストする。無人のトラックやドローンが物流・人流を動かし始めようとしている。交通手段は車や電車から、水上交通やLRTに少しずつシフトしている。さらに自動運転技術が身の回りに届き始めれば、現在の都市における交通利便性の考え方は大きく変わるだろう。

モビリティとは何か
こうした変革が起きている領域は「モビリティ」と呼ばれる。もとは「移動可能性」を意味する単語であったが、今日ではさまざまな移動手段、それらを用いた問題解決、サービスのあり方、人々の時間の使い方など、さまざまな側面を含んだ多義的な言葉となった。
都市と建築にかかわる人々にとってモビリティとは何であるのか、主だったところを右図にまとめた。

まちはどのようによくなりうるか
排気ガスを出さず歩行者に危害を加えない自動運転の電気自動車があれば、歩行者のための広々とした道路が増えそうだ。ドローンによる物流はラストワンマイルの渋滞を減らすだけでなく、緊急時の搬送などにも期待が寄せられる。
交通に起因する社会課題には以下のようなものがある。これらの解決の先にある、より豊かで魅力あるまちが、地域性や気候、風土をより反映したものとなるために私たちの専門性を発揮したい。

都市・建築にかかわる人びとにとってモビリティとは何か

モビリティに起因・関連するさまざまな社会課題

02スマートシティとデータ

モビリティの変革とスマートシティ(スーパーシティ)
富山市・宇都宮市などのようにLRTを中核のひとつとした動きのほか、前橋市の自動運転バス、横須賀市の観光型Mobility as a Service(MaaS)など、移動手段にあわせ街全体が変わる動きがみられる。
ICT技術を用いてよりよい市民の生活を実現する都市をスマートシティと呼び、日本では内閣府が2021年に「スーパーシティ」構想をとりまとめた。

スマートシティ・スーパーシティに欠かせないもの
これらの都市をコンピュータやAIになぞらえて考えると、動作するハードウエア、頭脳となるシステム・プログラムに加え、それらが参照するデータが必要であることがわかる。地図情報や位置情報、支払いなどの決済情報などが中心的存在だ。加えて、都市のある場所を考えると、その場所の天候や環境、予約や利用の有無、セキュリティ、ひいては人の快適性や感情などに至るまで情報となることができ、一体的に使えばより便利で高度なサービスが生まれうる。多層的な都市のデータの構成を左図のようにまとめた。

都市のデータはだれのものか
「ビッグデータ」と呼ばれるようなデータの中でも、デジタルツイン、ミラーワールドなどと呼ばれるデータ化された都市は格段に大量の情報となりうる。消費活動や交通状況、ソーシャルメディアなどの情報まで含みうるうえに、精緻な空間情報を記述するのに膨大な容量を必要とするためだ。
こうした情報をひとつの企業・ひとつの自治体だけが運用・維持することは現実的ではない。データの作成や維持のコスト・プライバシー・デジタルエシックス(デジタルな倫理)などの課題は社会全体にかかわることである。また、データの保有者が誰であるのかという実は難しい課題が含まれている(データ・オーナーシップ)ため、データは分散的につくるほか道がない。これは今後のまちづくりのフロンティアとなる領域である。

都市を構成するデータの階層構造 https://www.youtube.com/watch?v=JTa8zn0RNVM などを参考に作成

03すこし未来に向けた提案

2040年 ―― 今から20年弱後の日本では、高齢者の数がピークを迎え、東京都でも人口の1/3が高齢者になる一方、消滅する自治体が発生するなど、人口減少のさまざまな問題がいよいよ表面化する可能性が高い。これ以上増えない人口を前提に、都市部以外の地域における魅力を維持・向上するためにモビリティの力は役立てられないか。
そのような発想で2020年11月、社内外のメンバーと共にシナリオを考えた。

あらすじ

2040年の日本に対する提案。人口が減少する社会では、都市部以外の地域は苦境に立たされていた。そんな自治体は徐々に横につながりはじめ、徐々に大きなひとつの自治体としてのあり方を考えるようになってきた。

運営・経営に苦しむ地方自治体に、新しい考え方を授け、ピンチから救ってきた伝説の市長がいた。彼は地方自治体を渡り歩き、その手で再建された街々はいつしか「ノマドシティ」と呼ばれるようになった。

ノマドシティでは、住むのに必要な機能を提供してくれる車が市民にプレゼントされる。あらゆる面でくらしを助けてくれるこの車「ノマドカー」は、まるでパートナーや家族の一員のようだった。インフラが撤収し、従来の家が成り立ちづらくなったところでも、オフグリッドであるノマドカーがあれば暮らしていけるようになった。

ノマドカーは、あたかも家がそのまま移動するようなもの。学校や職場だけでなく、そのときに住みたい場所、行きたいところへ動いていき、実際にそこに住むことで、地域経済に加わる。人びとは、いろいろな場所にちょっとずつ住むようになった。

ここはある湖のほとり。これまでは年に一度、音楽フェスのときだけ大盛りあがりしていた場所だった。パンデミックのあと、大きなイベントは難しいままだったが、かわりに小さなイベントが毎日なにかしら開催され、それを好む人たちが周りに小さな家を建て、ノマドカーと一緒に暮らしている。音楽を愛する野間さんもそのひとり。ときどき通院しながらも、移動時間の運転からなにから、ノマドカーに任せきりで忙しく働いている。

ここはとある小学校……といっても実際はおおきな藤棚の下。子ども用の小さなノマドカーが三々五々、登校するなり屋根を開けて授業モードに入っている。授業の内容や天気、クラスの性格に応じて、授業はいろいろな場所で開かれる。病院帰りのおばあちゃんが後ろでお茶を飲みながら授業を見ているのもいつもの光景。

彼女は研究者。機能縮小した大学キャンパスから出て、本と実験器具を積んだノマドカーで菌類と文化の研究を続けている。行く先々でキノコを集めたり、子どもにキノコのことを教えたり、調理方法を習ったりしている。雨の日は車で論文を書いたり授業の録画をしたりする。動くことが彼女の研究なのだ。

ワークショップ参加メンバー:

(社外)荒川崇志/岩本唯史/北川祐介/杉野元/平澤勉/三井実

(社内)浅井隆博/大石卓人/奥修一朗/鈴木啓/鉄川ななみ/中島朋子/藤本健太郎/牧野内絵理/宮野英里子/横山茂紀/石澤宰

04さらなるステップへ

上記内容を含むモビリティに関する調査・提案内容を「モビリティリサーチブック」としてまとめました。
データを通じ、たのしいまちづくり提案のために私たちの建築職能がお力になれる機会を心待ちにしています。

石澤 宰