プロジェクト・ストーリー

竹中大工道具館 Takenaka Carpentry Tools Museum

作品で体現する「ものづくりの精神」— オール竹中による挑戦が生み出した、伝統と革新の融合 —

神戸市にある竹中大工道具館は、日本で唯一の大工道具をテーマとした博物館だ。同館は大工道具の保存・展示に加えて、職人の技と心の記録、木の文化の理解促進・伝統のものづくりなど、幅広い活動を行っており、設立30周年の2014年秋、新神戸駅近くの竹中工務店ゆかりの地へと移転し、新たな一歩を踏み出した。それにふさわしい建物のあり方をめぐって、議論に議論が重ねられた。たどり着いたテーマは、「ものづくりの精神が感じられる建物」を生み出すこと。ひときわ大きな責任と期待を背負ってプロジェクトは動き出した。

木が育み、受け継いできた心と技を現代の建築物で花開かせる。

 新築された竹中大工道具館を特徴づけるのが、ふんだんに木材が用いられた1階ホールだ。大天井には美しい木目を持つ無垢の杉材が整然と並ぶ。さらにこの場所を心地よいものにしているのは、南面、北面に大きく設けられた開口部分だ。柱は最小限に抑えられ、床から天井までをガラスにすることで六甲山の麓に広がる自然を館内から眺めることができる。まさにここは、「伝統と革新をつなぐ」「人と自然をつなぐ」という同館のコンセプトを遺憾なく表現している空間なのだ。
 この空間を生み出すにあたり、プロジェクトチーム内では激論を交わされていた。防火地域内に和風のスケールをもった木の空間をつくることは、そもそも無理難題だからだ。
「防火地域に木造でつくると、耐火構造にしないといけなくなり、燃えしろ等を考えると、到底和風のスケール感を維持することはできません。そこで鉄骨構造の中に木架構を鞘堂のように容れ込むことを思いつきました。しかし、これでは『伝統と革新の融合』にはならない。最適解を求めて、気がつけば議論に熱がこもっていました。」
 彼らの議論は、周囲からは「喧嘩をしているのか?」と心配されたほどだという。そんな日々の積み重ねのなかから生まれてきたのが、「ダブルアーチ鉄骨梁」と呼ばれる屋根の構造だ。これは、強度にすぐれたアーチ構造を用いることで、ホール内からは柱をなくしてしまおうという方法。採用にあたっては、構造設計や社内の技術部と検討を重ね、最善の形状を導き出していった。このダブルアーチ鉄骨梁によって六甲山から敷地に連続する緑を建物内にひきこむことができた。さらにこの十分な開口が火災時に余裕をもった避難経路の確保をもたらし、木材を存分に使えることにつながっている。そしてこのダブルアーチの下部に、和風のスケールをもつ木架構を容れ込んだ。この木架構は天井から吊るのではなく、合掌造りのようにお互いの部材が持ち合って成立するようにするため、仕口や材の匂配、断面形状等、大工と試作を何度もくりかえした。
「木か鉄かという二者択一ではなく、両者の強みを組み合わせることが大きなチャレンジでした。ここで生み出された手法は、防火地域における和風建築の新たな道を示したと言えます。」

想いをかたちにする方法を考え抜くことが、当社の精神。

前例がなく情報がない。それならば、手を動かし知恵を使い、前例を作ればいい。
  •  ダブルアーチ鉄骨梁による無柱大空間や天井の美しい木材仕上げは、大工道具館の大きな魅力だ。同時に、建築施工の伊藤克昌にとっては施工上の最大の難所であり、腕の見せ所でもあった。 「ダブルアーチ鉄骨梁は施工時にたわみが発生してしまうのです。それがどの程度のものになるか予想が難しい。そこで、解析はもちろんのこと、模型によるテストや工場での仮組みなど、考えられる限りの準備を行ったうえで施工をしました。」
     天井は、合掌造りと同じ「相じゃくり」という加工方法を用いることで優美な姿を実現している。これは、日本人が長い年月にわたって受け継ぎ、磨いてきた美しさと機能性を備えた加工方法だ。しかし、加工の形状や細部の仕上げ、木材という自然素材ならではの年月による変形など、考慮に入れるべきポイントは数限りなくある。もちろん、伊藤にとっては初めての経験だった。そこで伊藤は、ベテランの大工や協力会社から可能な限り情報を集め、協力して施工方法を検討していった。またここでも、ときには模型を作って改良点を協議していった。
     2つの施工に共通するのは、「前例がなかった」という点だ。前例がないから情報やノウハウは蓄積されておらず、課題の解決に向けたハードルは非常に高くなる。しかし伊藤は、「前例がなくても誰一人として怯みませんでした。みんなで知恵を持ち寄り、汗を流し、自分たちの手で情報とノウハウを蓄積していったのです」と振り返る。そして、そういった気概を持ったメンバーが集まったからこそ、当社の名に恥じない作品が生み出されたと考えている。
  • 仕事を楽しむことから、最良の作品が生まれていく。

     作業所で次席を務めた黒河勝之はプロジェクトの開始時に、「非常に難易度の高い仕事だ」と感じたという。同時に、「めったに経験できない仕事だからこそ、全員が目一杯楽しめる仕事にしよう」とも考えた。
     黒河の思いはこうだ。建築の仕事は、規模や施工場所など、同じ条件のものは二つとない。技術もどんどん新たなものが生まれる。しかし、「大勢のメンバーが力を合わせて一つのものを作る」という本質は変わらない。いい仕事ができるかどうかは、関わる人の心が一つになるかどうかという一点にかかっているのだ。ならば、みんなが心を合わせられるように、すなわち、情熱のすべてを注ぎ込める作業所にすればいい。それが、「楽しめる仕事」だ。
    「プロジェクトに関わった人は、国内有数の技量と匠の心を持った「職人」さんたちです。いわばプロ中のプロ。彼らが存分に技と知恵を発揮してくれる、つまり仕事を楽しんでくれる環境を作るのが私の仕事でした。」
     もちろん、プロであるがゆえのこだわりは、工期やコストなどの条件と折り合いがつきにくい場面も生み出してしまう。しかし黒河は、そんな時こそが自分の出番だと考えている。「一人ひとりが情熱を持って仕事に取り組めば、自ずと最良の作品は生まれてくる。そのための環境を作るのが私たちの役割。今回、「職人」さんたちはみんな、大工道具館に携わったことを誇らしく思ってくれています。それこそが見事な作品が生まれた証だと考えています。」

  • 一人の情熱が周囲を動かしていく。そのとき、壁が打ち破られる。

     二人はプロジェクトの中で、さまざまな印象的な出来事を経験した。伊藤は、困難に直面したとき、部門を超えてバックアップを得られた。
    「見積や調達など、直接的にはプロジェクトと関係していない部署の人まで力を貸してくれました。設計施工一貫は当社の強みですが、その背景には、“オール竹中”という一体感があることを知りました。」
     また作業所内では、「誰一人として『できない』とは言わなかった。できるようにする方法をみんなが考えていた」、「いたるところで、『どうやったらできるのか』をみんなが考えていた」という、壁を打ち破ろうとする情熱に溢れていた。
     最良の作品を生み出すために、あらゆる方法を考え抜く。決してあきらめはしない。しかも、部署や役割の垣根を超え、すべての人が一体となって―。これこそが、当社の精神なのだ。
    竹中大工道具館に注ぎ込まれた一つひとつの技や知恵。それは今、同館を訪れる人へ静かにものづくりの精神を語りかけている。

Employees Message

  • 常に挑戦していける、刺激に満ちた環境。

    今回のプロジェクトでは、国内有数の技量をもつ大工さんや瓦職人、左官職人など日頃の仕事ではなかなか接することのできない方々と一緒に仕事をすることができました。こういった出会いの豊富さや人的ネットワークの広さは竹中工務店ならではです。常に新たな挑戦ができ、刺激に満ちているのが当社の魅力です。

    建築施工
    黒河 勝之

  • 人のつながりを支える社内制度が挑戦を後押し。

    “オール竹中”を感じたプロジェクトでしたが、振り返ってみると、さまざまな社内制度がそれを支えているように思います。例えばジョブローテーション制度や寮生活を通じた同期とのつながりのおかげで、社内には1,000人規模のネットワークがあります。1,000人いれば、課題を解決するヒントは誰かが持っているはずです。その安心感がチャレンジを後押ししてくれました。

    建築施工
    伊藤 克昌