水資源保護と環境汚染防止

Ⅰ.ガバナンス

水資源保護と環境汚染防止の活動は、地球環境分野に関する取り組みとして、図1に示すガバナンス体制において進めています。対象範囲については、グループ会社からバリューチェーン全体に拡大し、サプライチェーン管理と連携しながら進めていく計画としています。

当社グループは、地球環境課題を重要な経営課題と位置づけ、中期経営計画2030の基盤に環境戦略2050を定め、取締役会では、四半期に1回以上、地球関連課題に対して経営計画に関連する重要事項に関し、サステナビリティ中央委員会からの報告内容を審議し、決定事項を取締役社長に報告しています。

水資源保護と環境汚染防止に関する活動は、地球環境専門委員会の下部に設置された生物多様性WGにて検討されます。生物多様性WGは、主要な本・支店や事業本部及びグループ会社が参画し、事業影響の分析を行い、リスク・機会の抽出と対応策・戦略の立案を行うと共にその進捗状況を地球環境専門委員会に報告しています。地球環境専門委員会では、報告を受け、討議・審議され、サステナビリティ中央委員会へ上程・承認され、重要事項については更に取締役会に報告しています。

また、各委員会並びに取締役会における決定・指示事項は、各WGを通じて各本店・支店や事業本部及びグループ会社へ伝達・指示を行っています。

図1 当社グループの地球環境分野に関するガバナンス・リスク管理体制図
図1 当社グループの地球環境分野に関するガバナンス・リスク管理体制図

Ⅱ.方針及び活動指針

竹中グループでは、環境方針(2009年策定)に「環境と調和する空間創造に努め、地球環境の向上に挑戦し続けます」を掲げ、地球環境保護活動を進めてきました。
近年、水資源保護と環境汚染防止は、地球環境の最重要課題としてクローズアップされており、竹中グループにおいても2024年に、水資源保護活動指針、汚染防止活動指針として検討を開始し、策定し、国内外の竹中グループが一体となって取り組みを進めています。
直接操業としての、オフィス活動・建設工事作業所での活動に加え、技術・研究開発を通じた総合的な取り組みを推進し、ステークホルダーの皆様と連携しながら、環境負荷の除去・低減と正の影響の増大に向け、財務影響の定量化やリスク対応の進捗管理の精緻化に取り組み、一層のステップアップを進めてまいります。

1. 水資源保護活動指針

「水資源の効率的利⽤と水質の保全を推進することで、水リスク管理を徹底し、⽔資源の保護に努めます。」

<基本的な考え方>

貴重な水資源の効率的な利用による使用量の低減に努めるとともに、法令順守はもとより施工計画や工法の検討、水質管理を着実に実行し、水リスク管理の徹底により、持続可能な水資源の実現に貢献します。

2. 汚染防止活動指針

「⼟壌、⼤気などの汚染の防⽌・軽減を徹底することで、環境への負荷を低減し、⾃然環境の保全に努めます。」

<基本的な考え方>

環境汚染を引き起こす有害物質の管理方法やリスクについて、取り扱い手順を定め、環境負荷の除去・低減を図り、汚染防止に努めることで環境保護の保全に努めます。

Ⅲ.リスク・機会の検討プロセス、検討結果

1. 検討プロセス

水資源保護と環境汚染防止に関するリスク・機会の検討は、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)情報開示活動に取り込み、サプライヤーを含めた分析を行うと共に、サプライヤーとのエンゲージメントを進めています。
はじめにScoping(取り組み範囲の決定)にて、優先的に分析対象とすべき事業分野を絞り込んだうえで、 TNFDにて提唱するLEAPアプローチに沿った検討を行っています。LEAPアプローチでは、自社の事業と自然との接点を確認し、優先地域を特定の上(Locate)、各拠点における依存・影響を分析(Evaluate)し、依存・影響から生じる事業へのインパクトとして、リスク・機会を評価し(Assess)、さらにそれらのリスク・機会への対応策を構築・実践・開示する(Prepare)こととされています(図2)。

図2 依存・影響・リスク・機会とLEAPアプローチ
図2 依存・影響・リスク・機会とLEAPアプローチ

2. 検討結果

LEAPアプローチに従い、グループ・部門横断型のメンバーでワークショップを行い、リスク・機会の検討を進めました。
特に、水ストレス地域での操業においての取り組みの強化の必要性が高まっていることを再認識する結果となっています。

リスクの概要・対応策

Ⅳ.具体的な取り組み

1.水資源の保全・有効利用と水質汚濁防止

①自社オフィスにおける取り組み

  1. 超節水型トイレの採用
    貴重な水資源の有効活用・節水活動の推進を目指し、オフィス環境においては、設備施設の更新時期に合わせ、超節水型トイレの設置を進めて来ました。また、2019年からは無水トイレの実証実験を開始するなど、更なる水資源の保全と有効活用に努める活動を推進しています。
  2. 雨水の活用
    雨水の活用を促進するため、東京本店の屋上に降った雨水を地下ピットにある雨水貯留槽に集め、雨水ろ過装置での処理後、トイレ洗浄水用受水槽に貯留し、トイレ洗浄水として再利用しています。これにより、トイレ洗浄水の約10%超を雨水の再利用により賄っています。再利用にあたっては、法令に定められた点検・水質基準を遵守しています。
雨水濾過装置
雨水濾過装置

②建設作業所での取り組み

当社では、お客様及び社会にとって影響の大きい、地下水位の低下や枯渇、水質汚濁などに関して、各プロジェクト特有のリスクを設計段階から抽出し、解決のための方策を立案した上で施工を進めています。
設計段階で抽出された水リスクと対策は、工事着手前の打合会にて関係者で共有し、総合施工計画書に環境配慮活動実施要領として定めています。
着工前には、施工中及び完成建物が影響を及ぼすと想定される範囲のすべて近隣住民の理解が得られるよう、水リスクと対策について説明会を行っています。
施工中には、予め定めた環境配慮活動実施要領を確実に遂行するために環境保全責任者を任命し、「施工管理業務運用マニュアル」に則った日常管理を行い、「環境保全点検表」で定期的にチェックすることで、水リスクの顕在化を防止しています。
また、周辺の地下水位低下抑制に効果的な「小口径大容量リチャージ工法」や、山留め壁を造成するために使用する水の量を抑制する「TSP-ZERO工法、TSP-ECO工法」など、様々な技術開発を行い、積極的に採用を進めています。
今後も、工事の計画段階から工事完成にいたるプロセスにおいて、水資源の保全・有効活用と水質汚濁防止への取り組みを拡充してまいります。

総合施工計画書 環境配慮活動実施要領の例
総合施工計画書 環境配慮活動実施要領の例

③技術開発

■地下工事における周辺地下水環境保全のためのリチャージによる地下水涵養

地下水が豊富な地域での根切工事では、掘削工事のドライワーク確保のため遮水工法や地下水位低下工法が採用され、近隣井戸の井戸枯れ等が生じる懸念があり、周辺地下水環境保全に配慮した計画が必要です。地域によっては難透水層まで遮水壁を伸ばすことが困難な場合があり,ドライワーク工事を行うために、1分間あたり100~500Lの揚水流量を24時間連続で3~12か月継続、期間中の総揚水量は1万~数十万㎥となります。弊社では、遮水壁内の井戸から揚水した地下水を地上で処理した後に、遮水壁外部の地盤に還元するリチャージ工法を開発し、大規模な地下工事においても地下水環境への影響を最小限に抑える対応を行っています。本工法は2000年以降で約20件の工事に適用されています。

根切り工事に伴う地下水の影響
根切り工事に伴う地下水の影響
リチャージ工法の概念図
リチャージ工法の概念図

■湧水群の保全対策

国分寺駅北口地区第1種市街地再開発事業における地下水流動への影響評価と抑制事例
工事対象地での豊かで清澄な湧水群を保全するために、地下水解析等を用いて現状分析を行い、工事での影響を予測しました。
併せて、事前評価に基づき、地下水の流動阻害を低減する対策を立案し、実施しました。
具体的には、建物による地下水流動阻害を低減するために建物外周部へのバイパス管の設置を行い、地下工事中での揚水を処理後に帯水層へ還元しました。さらに地下水モニタリングを工事の前後に実施し、地下水位・水質への工事による影響が無かったことを確認しました。 

3次元解析モデル
3次元解析モデル
地下水環境保全対策の概要
地下水環境保全対策の概要

■雨水貯留浸透技術 レインスケープ®(雨庭)

レインスケープは、雨水を溜めて地下に浸透させるだけでなく、在来種の植物を植えて汚濁物質を除去したり、溜めた雨水を敷地内で利用したりできる、自然の力を活かしたグリーンインフラ技術です。豪雨時に地上と地中の貯水部が“雨水貯留・浸透空間”としてピークカットの機能を果たすだけでなく、平常時にも地上部が魅力ある植栽空間として機能し、集客力や企業価値の向上に寄与します。

適用事例1 新柏クリニック(3期)の糖尿病専門治療センター(糖尿病みらい)
雨水排水管への竪樋非接続と雨水の一時貯留・浸透を図り、気候変動適応策として公共下水道への負荷軽減と雨水を見える化する「雨水建築」と「雨も愉しむ庭」 を実現しています。

屋根面の雨水を土壌に導く雨水建築
屋根面の雨水を土壌に導く雨水建築
レインスケープ®(雨庭)
レインスケープ®(雨庭)

適用事例2 竹中育英会学生寮(東京都練馬区)
対象地は、都市型内水氾濫リスクの高い妙正寺川・江古田川流域に位置することから、敷地内からの雨水流出抑制を図る必要があります。施設の中庭を囲む大屋根に降った雨は、竪樋を設けずに直接レインスケープに導き、一時貯留・浸透をはかりました。
これまでに、最大1時間降水量45mmの豪雨でも中庭が冠水しないことを確認しています。

施設全景 敷地の間口いっぱいに地域に開放された前庭と連続する中庭
施設全景 敷地の間口いっぱいに地域に開放された前庭と連続する中庭

■クロロエチレン類地下水汚染に対する原位置浄化技術(バイオレメディエーション)

半導体基板洗浄、金属加工時の油除去、クリーニング工場などで大量に使用されていたクロロエチレン類による土壌・地下水汚染を、汚染土を掘り上げずに原位置で除去・分解する技術を開発し、浄化工事に適用しています。もともと対象地盤中に存在する分解微生物を活性化させるバイオレメディエーション技術と自然界から選抜した高い分解能力を有する微生物を添加して浄化速度を加速させるバイオオーグメンテーション技術を併用し、浄化対策期間の短縮を図っています。なお、高速分解微生物は,経済産業省と環境省の策定した「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」の適合確認を受け、環境への影響がないことが承認されています。

適用イメージ、分解微生物の顕微鏡写真、プロジェクト適用状況(分解微生物注入)

2.水ストレス地域での事業活動(TNFD活用)

2024年に稼働があった新築・解体工事の作業所についてWorld Resource Institute(世界資源研究所)の「Aqueduct Water Risk Atlas※1」を用いて、水リスクを把握しました。

  1. (1)国内での事業活動
    「Aqueduct Water Risk Atlas」を用いて、日本国内の新築・解体工事を行う242拠点の作業所及び本支店のオフィスを対象に確認した結果、水ストレス※2が「Ⅳ高い」以上の地域に所在する作業所・オフィスはありませんでした。
  2. (2)海外での事業活動
    「Aqueduct Water Risk Atlas」で海外の新築・解体工事を行う61拠点の作業所を対象に確認した結果、水ストレス※2が「高い」「極めて高い」地域に所在する作業所が36拠点ありました。
    当該36カ所の作業所を含め、全ての作業所において各国の法令に基づく適切な水管理を行っています。
  • ※1Aqueduct Water Risk Atlas:水量、水質、規制・レピュテーションの3カテゴリー13指標を5段階で評価する、水リスクの分析ツール。
  • ※2水ストレス:水資源のひっ迫具合を示す指標で、年間取水量を年間流水量で割ることにより求められる。

アジア地域
アジア地域
ヨーロッパ地域
ヨーロッパ地域
調査対象としたプロジェクト・拠点数は、竹中工務店において2024年1月~2024年12月の期間に稼働中の拠点から抽出しています。
調査対象としたプロジェクト・拠点数は、竹中工務店において2024年1月~2024年12月の期間に稼働中の拠点から抽出しています。

Ⅵ.指標と目標

水資源と環境汚染防止に関わる指標については、TNFDにおいて開示を求めているグローバル中核開示指標を参照し、水使用量、汚染物質総量などを用い、各拠点における把握・管理状況のヒアリングを開始しています。
水関連データについては、2026年より、グループ各社・海外拠点での取集活動を開始する予定です。
また、自然環境の保全・回復に対する積極的な取り組みとして、生物多様性が向上するプロジェクトの推進を掲げています。今後、これらの数値の全社的な集約や、目標設定・管理について、引き続き議論し、中期計画と連携のうえ、検討を進めていく計画としています

実績値の表