竹中の人
現場の声が導く、
人とロボットの共創による
建設業の新たな魅力
永田 幸平
Nagata Kohei
西日本機材センター
兼 課題解決部門・夢洲開発本部 
兼 エンジニアリング本部 スマートコミュニティ本部
(2025年6月掲載当時)
>永田 幸平
壮大な建築物に感動し、建築の世界へ

子どもの頃から、自動車や鉄道、航空機などの乗り物にとても興味がありました。これらが動く仕組みを探求するため、大学では機械工学を専攻しました。そこでは、自動車のタイヤやサスペンションなどさまざまな条件を変え、シミュレーションを通じて車体の安定性や振動がどのように変化するかを研究しました。
同級生の多くが自動車や電機などのメーカーに就職しましたが、私は竹中工務店を選びました。きっかけは、サッカー観戦で訪れた横浜国際競技場、コンサートを楽しんだ横浜アリーナの壮大さに感動し、大規模建築物の施工に携わりたいと強く思ったことです。

大規模建築の建設現場にて

大規模建築の建設現場にて

建設現場ニーズから生まれた、働き方を変えるタワークレーン遠隔操作システム

 建設業界では、就労人口の減少などの社会的背景を受け、建設現場での生産性および担い手に対する魅力の向上が喫緊の課題となっています。私はこれらの解決に向け、施工ロボットや施工管理業務を効率化するツールの開発を進めています。
私が在籍する西日本機材センターでは、クレーンなどの建設機械の配備や計画を通じて、建設現場を支援しています。建設現場を訪れるたび、「仕上工事ができるロボットはないか」「施工管理の手間が減るツールはないか」といった声を聞きます。こうした課題に対して、既製品を紹介したり、新たな技術を開発したりしています。

遠隔操作ロボットの開発状況

遠隔操作ロボットの開発状況(左が永田さん)

 私は2020年に、鹿島建設、アクティオと共同で、タワークレーンを遠隔で操作する「TawaRemo®」を開発しました 。タワークレーンのオペレータは、最大50mの高さにある運転席まではしごを上る必要があり、一度上ると夕方まで降りてきません。食事やトイレも運転席で済ませることが多く、このような労働環境から女性のなり手はごくわずかです。そこで、オペレータの身体的負担の軽減や作業環境の改善を目指し、タワークレーンを地上から遠隔操作できるシステムの技術開発に着手しました。
まずは、オペレータの使いやすさを最優先に考えました。従来のタワークレーンと変わらない操作性を確保することや、操作画面と実際のタワークレーンの動作間の遅延を最小限に抑えるなどの対策を施しました。
また、TawaRemoは同一箇所に複数のコックピットを配置できることから、複数の若手オペレーターに対して、熟練オペレーター1名による指導教育も行えるため、熟練から若手への技術伝承ならびに若手の技量向上の一助、担い手不足の解消にもつながります。
加えて、子どもやこれからの担い手に操縦してみたいと思ってもらえるようデザインにもこだわりました。
TawaRemoを操作したオペレータからは、「はしごを上る必要がないので、歳を取ってからも作業が続けられる」「運転席での操作とほとんど違和感がない」といった声をいただき、とてもうれしく思いました。現在、TawaRemoは韓国などアジアでの活用が検討されています。近い将来、日本にいながら海外の作業所のタワークレーンを操作する、時差の全く逆の地域から操作を行う、そんな日がくるかもしれませんね。

タワークレーン遠隔操作「TawaRemo」

タワークレーン遠隔操作「TawaRemo」

韓国の展示会で「TawaRemo」を展示、左から3番目が永田さん

韓国の展示会で「TawaRemo」を展示、左から3番目が永田さん

建設業界全体で生産性向上を目指す、RXの取り組み

TawaRemoは現在、当社に限らず、当社が幹事会社として参画する、「建設RXコンソーシアム」の会員企業でも使用できます。
「建設RXコンソーシアム」は、2021年に設立され、作業所における高効率化や省人化を目指し、建設業界全体の生産性および魅力向上推進を目的に、現在、多種多様な企業291社(2025年5月当時)が参画しています。
これまで技術開発はゼネコン各社が別々に行ってきたため、実際に技術を使う職人さんは、元請け会社が変わるたびにロボットやツールの使い方を身につけなければなりませんでした。この課題を解決するため、技術の相互利用を進めており、TawaRemoもその一つです。
私が担当する分科会ではこのほかに、天井作業を支援する高所作業車「建トウン」「アップロー」や、遠隔巡回ロボット「Remote base」、クレーン立入禁止柵「柵ッとバリケード」 などの普及活動を行っています。他社のメンバーとの交流はとても刺激的で、新しいアイデアを生むきっかけにもなっています。
こういった技術の普及展開を日本国内のみならず世界中に拡げていき、建設業界全体に当社ブランドの向上を図っていきたいと思います。

RXコンソーシアム相互利用分科会メンバーと(中央が永田さん)

RXコンソーシアム相互利用分科会メンバーと(中央が永田さん)

永田さんが開発に関わった、建トゥン、アップロー、柵っとバリケード)
ロボットとITツールが活躍した万博会場の建設現場

Expo2025 大阪・関西万博の作業所では、建設業の未来に向けてさまざまな取り組みを行いました。例えば、壁や開口部などの位置を工事中の床に写す「墨出し」作業。平面図のデジタルデータをもとにロボットが自動で「墨出し」を行うことで、省力化を図りました。このほかにも、作業で発生したごみを自動で集める「TOギャザー」、作業の進捗や資機材の管理に役立てるため作業所内を自動で巡回し、写真を撮影する四足歩行ロボット「spot」などがあります。
中でも力を入れたのがドローンの活用です。万博会場は広大なため、建設資材の搬送に時間がかかります。約5km離れた南港から資材をドローンで運ぶ実証実験を行い、必要な場所にピンポイントで届けられることを確認しました。
こうした取り組みは、建設業の未来に役立つと信じています。作業所員や職人さんの声に真摯に耳を傾け、建設業に貢献していきたいと思っています。

大阪・関西万博の会場の建設現場で仲間とともに

大阪・関西万博の会場の建設現場で仲間とともに

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