-Avitat-
都市部の緑地整備は「緑量の確保」や「景観の向上」に重点が置かれ、実際に野鳥などの生き物が集まる環境づくりにはつながっていないケースも少なくありません。単に樹木を植えたり芝地を確保したりするだけでは、種ごとに異なる生息条件や周辺環境とのつながりが考慮されず、生物多様性の向上に結びつかないのです。
こうした課題を解決するために開発されたのが、鳥の生息条件を科学的に数値化し、緑地計画に反映する「Avitat(アヴィタット)」です。本記事では、このAvitatの特徴や効果を、具体的なモデルや実証事例を交えて解説します。
Avitatとは
Avitat(アヴィタット)は、都市の自然を守り育てるために開発された緑地づくりの技術です。数値的根拠と独自データベースにもとづいて、緑地づくりを計画・支援します。
Avitat:Avian(鳥類の)とhabitat(生息地)を掛け合わせた造語
Avitatの特徴や効果
Avitatの特徴は、都市の環境の豊かさを示す指標として「鳥」に注目し、計画地の条件に応じた目標種を科学的に分析して選定し、目標となる鳥が好む環境条件を計画に取り入れる点です。従来の緑化は緑量や人にとっての景観を重視する傾向がありましたが、Avitatは「実際に生き物が集まるかどうか」を重視。鳥がどんな木や景観を好み、どのくらいの確率で飛来するのかをデータ化し、緑地の設計に反映させることで、生物が集まりやすい空間をつくります。
さらに、単なる敷地内の緑地だけでなく、周囲の環境とのつながりにも配慮します。孤立した緑地ではなく、地域全体で生き物が行き来できる「生態系の通り道(エコロジカルネットワーク)」を形づくることで、持続的で多様な自然環境を実現します。
ここではAvitatの具体的な特徴や効果について、実際の画像を見ながら説明します。
鳥種ごとの生息モデルによる計画支援
Avitatの最大の特徴は、鳥種ごとに異なる好適な環境条件を数値化し、緑地計画に反映できる点です。植栽条件と鳥類の飛来確率を科学的にモデル化し、計画地に応じた誘致可能種を提示します。
たとえば以下のように、高木層の面積や低木層の植被率が増えるにつれて、繁殖期や越冬期など季節ごとに各鳥種の飛来確率がどのように変化するかがわかるようになります。
(各種が対象地に飛来する緑地条件を定量評価)
つまり、「どの植生どのような植栽条件がどの鳥を呼び込むのか」を科学的に可視化し、計画地に応じて誘致可能な種を提示することができます。結果として、「単に緑を増やしただけでは生物が集まらない」といった従来の課題を解消し、より効果的な生態系配慮型の緑地づくりを支援します。
エコロジカルネットワークを考慮した緑地設計
Avitatは、一つの敷地内だけにとどまらず、周囲の環境とのつながりまで考慮した緑地設計を支援します。下図はその一例で、計画地と周辺のコア緑地との関係を示したものです。色の濃淡は「期待される鳥の種数」を表しており、濃い部分ほど多様な鳥が生息できる可能性が高いことを意味します。
(生息モデルを活用し緑地間の繋がりを可視化)
このように計画地周辺の緑地の分布を解析することで、「計画地が生態系ネットワークの中でどのような位置づけになるのか」を把握できます。結果として、都市全体に鳥類や小動物が移動・分散できるエコロジカルネットワークを形づくることができ、長期的に多様な生物が生息し続けられる環境の実現につながります。
データに基づく誘致目標種の選定
Avitatでは、各鳥種の生息確率を数値化し、実現可能性に応じて「誘致目標種」を明確に設定できます。例えば以下の図では、改修前・改修案①・改修案②における鳥種ごとの生息確率の変化を示しています。「ほぼ確実グループ」「可能性有りグループ」「難しいが期待グループ」「可能性ほぼ無し」の4つに分類され、どの種が現実的に誘致できるかが一目で分かります。
(対象地への誘致難易度ごとに目標種を設定)
実証事例である「調の森 SHI-RA-BE®」では、この分析を基に25種の目標を設定し、そのうち23種の飛来が確認されました。予測と実際の結果が高い精度で一致したことから、データドリブンの計画手法が有効であることが裏付けられています。
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まとめ
Avitatは鳥の生息条件を科学的に数値化し、植生や水辺の配置をモデル化することで、実際に鳥が集まる環境を設計できます。さらに敷地単体にとどまらず、地域全体で生き物が行き来できるエコロジカルネットワークを構築することで、持続的で多様な自然を実現します。
実証事例では予測と実際の飛来状況が高精度で一致し、有効性が示されています。今後も環境技術の開発を通じて、人と生きものが共に暮らせるまちづくりを進めていきます。
