Solution
”殺さない防虫”をコンセプトとする効果的な虫害対策
-防虫
 エンジニアリング-

環境負荷を抑えながら衛生的で安心できる空間をどうつくるかは、現代社会が直面する大きな課題です。虫の発生や侵入は信頼失墜を招いたり、利用者に良くない印象を抱かれたりするおそれがあります。

従来は殺虫剤に頼る方法が主流でしたが、薬剤耐性や生態系への影響が指摘され、持続可能な視点から見直しが必要になっています。当社では、2000年ごろに社会問題となった食品への生物異物混入を機に、薬剤に依存しない「防虫エンジニアリング」を展開してきました。

本記事では、防虫エンジニアリングの概要と建物における防虫対策の重要性、代表的な方法や導入メリットについて解説します。

人も自然環境も損なわない「防虫エンジニアリング」

近年、生きものの多様性を守ることが持続可能な社会づくりに欠かせない課題とされています。虫の被害を防ぐ方法としては殺虫剤の使用が一般的ですが、環境や生態系への影響を考えると必ずしも望ましい対応とは言えません。

そこで当社では、2000年ごろに食品工場での虫による異物混入が社会問題となったことをきっかけに、「殺虫剤に頼らない防虫」を掲げ、建物そのものの設計や仕組みを工夫して虫の侵入を防ぐ技術の開発やコンサルティングに取り組んできました。

現在では、食品工場に限らず、さまざまな製造施設や美術館・博物館、飲食店など、多様な建物で防虫対策を実現しています。人と自然が共に安心して暮らせる社会を目指す、持続可能な環境ソリューションのひとつです。

当社では、昆虫を4つのグループに分けることで、防虫対策の推進を図っています。

防虫エンジニアリング

「防虫エンジニアリング」は、2007年に財団法人エンジニアリング振興協会主催の「第27回エンジニアリング功労者賞」において、「エンジニアリング功労者賞」を受賞した当社独自の活動です。活動当初は、食品・医薬品工場等における異物混入低減としての防虫対策に着手しましたが、現在では、社内専門家、防虫技術検証のための専用実験施設を擁し、建築全般における虫害問題に対応できる体制を整えています。

防虫実験施設

バグキーパー(吸引捕虫機)

紫外線に集まった虫を強力な吸引により迅速に捕獲する当社いちおしの防虫設備です。40W蛍光管タイプのバグキーパーは、一般的な捕虫器(20W蛍光管1灯粘着式)の約10倍の虫を捕獲します。誘虫光源を20W蛍光管としたバグキーパーminiは、軽量・省スペースを実現し設置場所を選びません。

バグキーパーLED(吸引捕虫機)

虫を誘引するための紫外線光源を蛍光灯からLEDに変更した吸引捕虫機「バグキーパー」の後継機です。紫外線LEDを使用することで、現行機と比べ約57%の捕虫量増加、約10%の省エネルギー化を実現しています。蛍光管に不可欠であった反射板等を省くことで奥行きがほぼ半減し、壁掛けや壁埋込等設置スタイルのバリエーションが広がりました。

バグバンパー(歩行虫進入阻止部材)

含有する昆虫忌避剤の効果とオーバーハングの形状により、歩行虫の侵入を防ぎます。

バグキーパーM(吸引捕虫機、排水系発生虫専用)

これまで捕獲の難しかった排水系発生虫(チョウバエ)に特化した捕虫機です。

バグシールド(捕虫機一体型シートシャッター)

吸気で飛来侵入虫を捕獲し、排気で歩行侵入虫の侵入を防ぐ、二刀流の防虫設備です。

バグフラッシャー(フラッシング機能付きシートシャッター)

シート表面に強風を吹きあてて、停滞している虫を吹き飛ばすことにより、建物への虫の侵入を低減させます。

関連リリース

建物における防虫対策の重要性

建物は人やモノを守るための空間であると同時に、さまざまな「侵入リスク」にさらされています。特に換気や開口部を必要とする構造では、虫が入り込みやすくなります。ここでは、建物設計における防虫対策の意義と建築的な取り組みについて解説します。

なぜ防虫対策が必要なのか

防虫対策が必要な理由は、建物の衛生管理と信頼性を守るためです。虫が建物に入り込むと、まず製品への異物混入が大きな問題になります。食品や飲料、化粧品など衛生管理が厳しく求められる分野では、虫の混入はそのままクレームや製品回収、さらには企業の信用失墜につながりかねません。

また、虫が建材や設備に付着・繁殖することで、フィルターの目詰まりや機器の不具合、腐食などの二次的なトラブルが起こることもあります。さらに、衛生環境が悪化すれば、アレルギー症状や病原体による健康被害のリスクも高まります。

建築的アプローチによる防虫

従来は殺虫剤や薬剤が一般的な手段とされてきましたが、環境への影響や薬剤耐性の問題、残留リスクが課題となってきました。そこで近年注目されているのが、薬剤に頼らずに建物そのものを「虫が入りにくい環境」として設計する建築的防虫の考え方です。

具体的には、建物の気密性を高めて隙間を減らす、二重扉や前室を設けて多重のバリアをつくるといった設計手法があります。また、建物内部をわずかに正圧に保つことで外から虫が流入しにくくする空気制御や、虫が好む波長を避けた照明設計なども有効です。

当社が展開する「防虫エンジニアリング」は、こうした仕組みを体系化したものです。上述した「バグキーパー」や「バグバンパー」、「バグシールド」といった建築設備を組み合わせ、薬剤を使わずに虫の侵入自体を防ぐ仕組みを提供しています。

防虫対策の導入メリット

虫が建物に入ってしまうと、衛生状態が悪くなったり、環境に悪い影響を与えたりするおそれがあります。一方で、適切な防虫対策を導入すれば、こうしたリスクを防ぐだけでなく、施設の維持にもつながります。

ここでは、防虫対策を取り入れることで得られる3つの大きなメリットについて解説します。

衛生・安全の確保

防虫対策は単なる衛生管理にとどまらず、法令を遵守し、利用者の安全を守るための大切な仕組みです。実際に、いわゆる「ビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)」では、床面積が3000㎡以上の特定建築物に対して、6カ月ごとに清掃やねずみ・昆虫の防除を行うことが義務付けられています。

もし点検で害虫の発生が確認された場合、速やかな対応が必要であり、放置すれば行政から改善命令が出る可能性もあります。衛生管理が特に厳しく求められる現場では、より迅速で確実な対応が求められるでしょう。

環境負荷の低減

防虫対策を考えるうえで、「効果を出すこと」だけでなく、「周囲環境や人に与える影響を最小化すること」も重要です。従来から使われてきた薬剤中心の手法は、短期間では強い抑制力を持つ場合がありますが、長期的には空気や水、土壌への残留、薬剤耐性の発生、生態系のバランスなどに悪影響を及ぼすおそれがあります。

近年は「IPM(総合的有害生物管理)」という考え方が、建物管理の領域でも取り入れられています。IPMとは、まず発生予防や侵入経路の遮断を優先し、駆除は最終手段として扱うような戦略を組むことです。

また、当社が展開する「防虫エンジニアリング」のように、建築段階で薬剤に依存しない構造を設計する動きもあります。こうした手法を活用すれば、環境負荷を抑えながら持続可能な防虫効果を維持できるでしょう。

施設価値の向上

防虫対策をしっかり行うことで、施設そのものの価値を高める効果も期待できます。まず、従業員や利用者にとって快適で清潔な環境が保たれれば、作業の効率が上がり、過ごしやすさも向上します。さらに、商業施設や美術館、病院など人の目に触れる機会が多い場所では、清潔さや衛生的な印象が施設の評価に直結します。

また、防虫対策によって清潔さや安心感といった「目に見えにくい価値」も利用者や取引先に伝わります。建物が清潔に保たれていれば、改修や再利用の際に高く評価されやすくなり、長い目で見ればコスト削減や資産回収の面でも有利になるでしょう。

代表的な防虫対策の種類

建物に虫を寄せつけないためには、侵入経路や飛来・発生源の性質を見極め、それぞれに応じた対策を講じることが重要です。ここでは、飛来虫・歩行虫・排水系発生虫という3つの切り口で、防虫対策の代表例とその考え方を解説します。

飛来虫への対策

外から入ってくるハエや蚊などの飛ぶ虫には、光で誘い寄せて捕まえる「捕虫器」が効果的です。最近はLEDを使ったタイプが広く使われており、従来の蛍光灯タイプに比べて長持ちし、省エネにも優れています。

LED式の捕虫器は、虫が集まりやすい波長の光を出して効率よく誘引し、粘着シートや吸引装置で捕獲します。LEDは消費電力が少ないため、電気代を抑えながら運用でき、設置台数を減らしても十分な効果を得やすい点がメリットです。さらに、薬剤を使わないため、人や環境への負担が少ないのも大きな特徴です。

歩行虫への対策

アリやゴキブリ、ダニなど、歩いて侵入してくる虫には、建物の構造そのものを工夫する対策が効果的です。たとえば、床と壁のすき間をできるだけなくしたり、段差や特殊な形状を取り入れることで、虫が通りにくい物理的なバリアをつくれます。

空気の流れを利用する方法もあります。入口や出入り口に設置する「エアカーテン(気流バリア)」は、風を一定方向に流すことで虫が中に入るのを防ぐ仕組みです。薬剤を使わずに、空気の壁でブロックできる点が大きな強みです。

床材の選び方も大切です。たとえば、床の表面を滑りやすい素材や硬くて粗い仕上げにすると、虫が歩きにくい環境になります。逆に、水分がたまりやすい床は虫の発生源となるため、排水性や乾きやすさを意識して設計することが望ましいでしょう。

排水系発生虫への対策

排水溝やパイプ、グリストラップなどの湿った場所では、チョウバエやショウジョウバエといった小さな虫が発生しやすくなります。これらは一度増えると数が急激に増加するため、早めの対応が大切です。

基本となるのは、虫が発生する原因を取り除くことです。排水管の汚れをこまめに掃除する、清掃の回数を増やす、パイプにしっかり勾配をつけて水を溜めないようにする、といった方法が効果的です。さらに、排水口の近くに捕虫器を置くことで、発生した虫をすぐに捕まえられる仕組みをつくることもできます。

建物の中を「リスクの高い場所」と「そうでない場所」に分けて管理することも有効です。たとえば、トイレや厨房、排水設備のある部屋を重点的に対策ゾーンとし、それ以外のエリアとは空気の流れや構造で分けるとより高い効果が期待できるでしょう。

まとめ

建物における防虫対策は、単に虫を避けるためだけではなく、衛生の維持や利用者の安心、そして施設そのものの価値を守る重要な取り組みです。日本の法律でも大規模建物に対して定期的な害虫防除が義務付けられており、防虫は法令遵守の観点からも欠かせません。

加えて、薬剤に頼らない建築的アプローチやLED捕虫器なども、環境に配慮しながら効果的に虫を防ぐ方法として広がっています。

こうした対策を徹底することで、施設は清潔で快適な空間を維持でき、利用者の信頼や評価が高まり、長期的な資産価値の維持にもつながります。防虫対策は見えない部分で施設を支える基盤であり、安全で持続可能な運営を実現するための大切な要素なのです。