-I.SEM®(アイセム)-
エネルギーを取り巻く状況は大きく変化しています。電力需給の逼迫や電気料金の上昇、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの導入拡大など、ビルの運営者が直面する課題は年々複雑さを増しています。
これまでの省エネ対策は、空調や照明といった個別設備の効率化が中心でしたが、今後は太陽光発電や蓄電池、電気自動車などを組み合わせ、建物全体の最適化が求められます。こうした新しいニーズに応えるしくみとして誕生したのが、エネルギーマネジメントシステム「I.SEM®」です。
本記事では、I.SEM®の概要やしくみについて詳しく説明します。
I.SEM®とは?
I.SEM®とは、中小規模のビルでも先進的なエネルギーマネジメントを可能にするシステムです。
これまでのエネルギーマネジメントは、空調や照明といった設備ごとに効率化や省エネを行い、電力使用のピークを抑えて契約電力を減らすことが中心でした。
しかし近年は、太陽光発電や蓄電池、電気自動車の充放電装置など、さまざまな電源を一体的に管理・制御することが求められています。大規模なビルではすでにこうした高度なシステムが導入されていますが、中小規模のビルではコストや運用面で実現が難しいのが課題でした。
このような課題を解決するために誕生したのが、当社が独自開発した「I.SEM®(アイセム)」です。中小規模のビルでも再生可能エネルギーを効率よく活用でき、電力不足や省エネに対応できる次世代のエネルギーマネジメントシステムです。
I.SEM®のしくみと機能
I.SEM®では電力の「見える化」や発電・需要予測、太陽光発電の自家消費制御、需要ピークの自動抑制など、複数の機能を組み合わせて効率的な運用を実現します。
ここでは、それぞれのしくみと特徴について解説します。
エネルギー見える化
従来は月ごとの電気料金やメーターの数値を見て判断するしかなく、具体的に「どの設備がどれくらい電力を消費しているのか」を把握するのは難しいものでした。
I.SEM®では空調・照明・EV充電器などの使用状況を一目で確認でき、どの設備が電力消費の大きな要因なのかを直感的に理解できます。管理者は優先的に取り組むべき省エネ対策を判断しやすくなり、利用者にとっても「今どれくらい節電できているか」がわかりやすいため、意識の向上につながります。
発電・負荷予測
I.SEM®は、気象予報や過去の使用データをもとに、時間帯ごとの電力需要と発電量を予測します。晴れて発電量が多い日には太陽光発電を優先的に利用する計画を立て、逆に曇りなど需要が集中する時間帯には蓄電池や他の電源を組み合わせて安定供給できるよう準備します。
従来は予測精度が低いため、余った電力が無駄になったり、急な需要増に対応できないケースがありました。I.SEM®の発電・負荷予測機能により、電力の無駄を減らし、より効率的で安定したエネルギー運用が可能になります。
PV自家消費制御
太陽光発電でつくられた電気は、その場で使い切れないと売電されたり無駄になってしまうことも少なくありませんでした。I.SEM®では、余った電力を建物の中で優先的に活用します。具体的には、蓄電池に充電して後で使えるようにしたり、空調や照明に回すことで消費を最大化します。結果として、電力会社から買う電気を減らし、コスト削減につながります。
発電した電気を現地で使い切るため、エネルギーを有効に使えるだけでなく、環境への負荷も抑えられます。特に電力需要が集中する時間帯には、蓄電池にためておいた電気を放電して使えるため、ピーク時の負荷を下げる効果も期待できるでしょう。
デマンド制御
電力契約はピーク時の最大使用量を基準に設定されるため、一度でも大きなピークがあると電気料金が高額になってしまいます。一方、I.SEM®では、建物内の使用状況をリアルタイムで把握し、ピークが近づくと自動的に一部の空調を調整したり、蓄電池から電力を供給したりして負荷を下げます。
電力会社や地域からの節電要請にも即座に対応できるため、社会全体の電力安定化にもつながります。建物単位だけでなく、複数の施設をまとめて制御することで、大規模な省エネ効果を発揮できる点も大きな特徴です。
MSEGとは
I.SEM®による計画を現場で実行し、太陽光発電・蓄電池・EVなどの分散電源を実際に建物へ供給する装置が、MSEG®です。MSEG®(multi-source energy gateway:エムセグ)とは、太陽光発電、蓄電池、電気自動車といったさまざまな電源を「直流」でつなぎ、効率よく電気のやり取りができる統合型の電源システムです。
通常の建物では、電気を交流と直流の間で何度も変換するため、損失が発生しやすいという課題がありました。MSEG®では直流で接続することで変換ロスを抑え、発電した電力を無駄なく利用できます。また、パワーコンディショナを介して建物内の空調や照明に電力を安定的に供給できるため、エネルギーの有効活用につながります。
さらに大きな特長は、停電時でも自立的に給電が可能な点です。太陽光や蓄電池に蓄えた電気を使い、空調や照明、さらには電気自動車の充電にも利用できるため、災害時にも役立ちます。
I.SEM®による統合デマンドレスポンス
I.SEMは電力網からの節電要請に対して、一棟の建物だけでなく、複数の建物を統合して自動で節電制御を実行することも可能です。
中小規模でも、複数のビルを束ねて節電することで大規模ビル並みの大きな節電を実行し、地域の電力逼迫に貢献することができます。
- アグリゲータ:VPPにおいて、電力会社と需要家の間に立ってうまくバランスをコントロール事業者
脱炭素社会に向けた実証施設での取組み
当社では、このI.SEMに加え、水素・燃料電池の活用技術、水素も含めたVPP(バーチャル・パワー・プラント)構築技術などのさまざまなソリューションを開発し、実証を進めています。
たとえば、2016年より新砂(東京都江東区)の自社グループ施設において、これらのソリューションを具現化するシステムを複数の企業とコラボレーションし、脱炭素社会の実現に向けたエネルギーマネジメント実証を行っています。
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水素実証施設(左)とMSEG(右) -
都市型水素ステーション
まとめ
I.SEM®は、中小規模のビルでも高度なエネルギーマネジメントを可能にし、太陽光発電や蓄電池を最大限に活用しながら、コスト削減と環境負荷の低減を両立できるシステムです。
ピーク電力の抑制や災害時のレジリエンス強化にも貢献し、これからの脱炭素社会に欠かせないしくみといえます。
