Solution
揮発性有機化合物で汚染された土地を原位置で
浄化
-温促バイオ®-

VOCを対象とした土壌や地下水の汚染に対しては、原位置浄化技術が用いられる場合があります。浄化に長い時間を要したり、処理の仕上がりにばらつきが出る場合があることが大きな課題です。揮発性有機化合物(VOCs)を対象とした原位置浄化技術も広く用いられていますが、条件によっては十分に分解が進まず、再汚染につながるケースも少なくありません。

こうした課題を解決するために開発されたのが「温促バイオ®」です。本記事では、従来の限界を克服した温促バイオのしくみと特長について解説します。

土壌・地下水汚染の浄化期間と浄化品質の問題を解決

揮発性有機化合物(VOCs)で汚染された土地を浄化する方法としては、地中に生息する微生物の働きを利用する「バイオスティミュレーション」*¹など、掘削を行わずにその場で浄化する「原位置浄化」*²と呼ばれる工法があります。

これらの技術は、掘削せずに浄化できる点がメリットですが、課題もあります。たとえば、浄化に長い時間がかかることや、地盤の状態によっては汚染物質を浄化しきれず、再び汚染が発生するリスクがあるのです。そのため、土地の売買や開発に伴うケースでは、より確実な方法として、コストを要しても「汚染土壌を掘削して場外に搬出・処理する工法」が選ばれることも少なくありません。

そこで開発されたのが、当社の「温促バイオ」です。温促バイオは従来の原位置浄化の弱点だった「時間の長さ」と「品質のばらつき」を同時に解決する革新的なシステムです。温めた水に浄化剤を溶かした「加温浄化剤」を地盤に注入し、微生物の働きを活性化させることで浄化を早めます。

さらに、蛍光トレーサー*³を使って加温浄化剤の広がりを確認しながら、均一に行き渡らせることで、再汚染のリスクを抑え、安定した浄化効果を得ることができます。

  • *1 バイオスティミュレーション:浄化剤を加えて地盤に生息している微生物を活性化させて浄化する技術
  • *2 原位置浄化:汚染された土壌・地下水を、掘削を行わずにその場で浄化すること
  • *3 蛍光トレーサー:地盤内の物質の移動を追跡するために使用する蛍光する染料

「温促バイオ」を適用するメリットや適用条件

「温促バイオ」は、従来の方法と比べて浄化にかかる時間を大幅に短縮できるため、その分、工事全体で排出されるCO₂を削減できます。

これまでのバイオ浄化技術では、処理に時間がかかるだけでなく、地盤条件によっては浄化剤を地盤全体に均一に行き渡らせることが難しく、汚染を完全に除去できず再び汚染が発生するリスクが課題でした。

温促バイオでは、温めた浄化剤を注入し、その広がりを管理することで、地盤全体に均一に行き渡らせることができます。結果として浄化の確実性が高まり、再汚染の防止にもつながります。さらに、建物を稼働させながらでも施工が可能で、施設の利用を止めることなく環境対策を進められる点も大きな強みです。

「温促バイオ」適用イメージ

特長1  地盤を加温し、微生物分解に適した温度状態を創出し、浄化期間を短縮

加温浄化剤を地盤に注入し、地盤内を25~30℃に保つことで、土粒子に固着したVOCsが地下水中へ溶出しやすくなるとともに、微生物の活性化を図ります。これにより、国内の一般的な地盤中の温度である15~17℃で浄化する場合と比べて、浄化期間を半分以下に短縮します。

浄化促進のメカニズム
分解効果の比較(室内試験)
※ PCE:テトラクロロエチレン、TCE:トリクロロエチレン、
c-DCE:シス-1、2-ジクロロエチレン、VC:クロロエチレン

特長2  蛍光トレーサーを活用して、不均質な地盤でも加温した浄化剤を均一に注入制御ができ、品質が向上

蛍光トレーサーを用いることで加温浄化剤の拡散状況を見える化し、加温浄化剤の温度や注入量、注入位置や揚水位置などを制御することで、地盤内に均一に行き渡らせます。微生物が活性化するよう、地盤内の温度や浄化剤の濃度を調整することで、浄化不良や再汚染のリスクを低減します。

蛍光トレーサーを用いた制御システムの概要

温促バイオの主な受賞歴

2021 令和3年度日本水環境学会賞 技術賞
2021 第48回 環境賞 環境大臣賞
2022 令和3年度 土木学会賞(土木学会) 環境賞
2022 令和3年度 地盤工学会賞(地盤工学会) 技術開発賞
2023 第25回 国土技術開発賞 最優秀賞

実汚染サイトでの実証実験

実験概要

サイト概要 工場敷地
実験期間 20か月
汚染対象物質 VOCs
(PCE:テトラクロロエチレン、TCE:トリクロロエチレン、cDCE:シス-1,2-ジクロロエチレン、VC:クロロエチレン)
浄化対象範囲 面積 160m²、対象土量 720m³
対象地盤の土質 砂質土
対象範囲の端部に4か所の注入井戸と中央部に2か所の揚水井戸を設置。加温浄化剤及び蛍光トレーサーを対象範囲内に行き渡らせて微生物分解に適した条件を創出・制御。
  • 対象地盤断面図
  • 地下水及び土壌汚染の概要と井戸配置
  • 地下水濃度の経時変化(Z2地点)
  • 実験前後の土壌の状況(Y2地点)  実験前後の地下水の状況(Y2地点)

結果概要

実験開始約1年後に目標濃度(クロロエチレンの地下水基準と同等レベル)以下まで減少し、その後、約6か月にわたり、VOCs濃度の再上昇が無いこと確認しました。

より高濃度のVOCs汚染に対しては「バイオオーグメンテーション」との組み合わせで対応

高濃度のVOCs汚染に対しては、予め分離・培養した特殊なVOCs分解微生物を注入する「バイオオーグメンテーション*⁴」との組み合わせで対応します。このVOCs分解微生物は国立大学法人名古屋工業大学が分離に成功したもので、通常のバイオスティミュレーションでは対応できない高VOCs濃度の環境下でも生息しVOCsを分解できる能力があります。本微生物は、「微生物によるバイオレメディエーション利用指針*⁵」の適合確認を取得し、安全性を確認しています。

  • *4 バイオオーグメンテーション:予め外部で培養した微生物を栄養剤等とともに土壌・地下水中に投入することにより浄化する技術。
  • *5 微生物によるバイオレメディエーション利用指針:微生物を利用した土壌浄化について、生態系等への影響に配慮した適正な安全性評価及び管理
    手法のための考え方を指針として示したもの
「温促バイオ」との組み合わせ例

土壌浄化の可能性を拡げ、
汚染された土地の再生と利活用に貢献します

土壌浄化が困難な場合、土地の利活用が進まず、ブラウンフィールド*⁶化する懸念があります。「温促バイオ」は汚染された土地の再生と利活用の幅を大きく広げます。

「温促バイオ」の開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の戦略的省エネルギー技術革新プログラムの助成を受けて株式会社竹中土木との共同研究にて実施。
構成する要素技術の開発は、国立大学法人岡山大学及び国立大学法人横浜国立大学との共同研究にて実施。
「バイオオーグメンテーション」と組み合わせた技術は、環境省の「令和2年度 低コスト・低負荷型土壌汚染調査対策技術検討調査(委託業務)」の対象に選定。
「温促バイオ」は、東京都の地下水汚染拡大防止技術評価委員会において『有害物質等で汚染された地下水の拡大を防ぐ先進的な技術』に認定。

  • *6 ブラウンフィールド:土壌汚染の存在、あるいはその懸念から、本来、その土地が有する潜在的な価値よりも著しく低い用途あるいは未利用と
    なった土地

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バイオスティミュレーションとは?

ここでは、バイオスティミュレーションの基本的な考え方やしくみについて解説します。

バイオスティミュレーションの基本

汚染された土地や地下水には、もともと汚染物質を分解できる微生物が存在している場合があります。ただし、栄養分や酸素濃度、温度や水分といった条件が整っていないと、微生物は十分に働けません。

バイオスティミュレーションとは、そうした微生物の力を引き出し、浄化の働きを高めるための方法です。たとえば、揮発性有機化合物(VOC)で汚れた土地に栄養塩を加えると、土壌にすでにいる微生物が活発に動き出し、汚染物質の分解が進みます。

ただし、どんな現場でもバイオスティミュレーションが有効とは限りません。分解に適した微生物が存在しない場合や、汚染濃度が極めて高い場合には、バイオスティミュレーションだけでは効果が不十分になることがあります。そのようなときは、外部から分解能力を持つ微生物を加える「バイオオーグメンテーション」を組み合わせるケースもあります。

バイオスティミュレーションのしくみ

VOCを分解する微生物の力は環境条件に左右されます。適切な環境条件ではない場合、微生物は活動できず、VOCの分解は進みません。

そこで人が介入し、微生物の活動に必要な要素を補います。具体的には、汚染物質がVOLの場合、栄養塩を注入します。さらに、地盤中のpHを調整し、VOLを分解する微生物が安定して増殖できる環境を保ちます。

こうすることで、自然のままでは停滞していた分解反応が加速し、汚染物質が効率よく分解されていくのです。これがバイオスティミュレーションの基本的なしくみです。

バイオスティミュレーションのメリット

バイオスティミュレーションのメリットは、従来の掘削法のように大型重機が不要であるため、環境負荷やコストを抑えることが可能で、また、建物の下の浄化も可能な土地利用の柔軟性も魅力です。

ここでは、具体的なメリットについて解説します。

掘削を避けて現場を活かしながら浄化できる

掘削や搬出を伴う方法では、重機の使用や汚染土壌の処理など、手間もコストも大きくかかります。一方、バイオスティミュレーションでは、大規模な掘削は必要がなく、土中の微生物が活動しやすい環境を整えるための浄化剤を注入することで浄化を進められます。

特に、建物や構造物がある土地で有効です。土中の建物を壊したりせずに済むため、土地利用への影響を最小限に抑えられるのです。例えば、営業中の工場や住宅地のように制約が多い場所でも、掘削を伴う方法に比べて柔軟に対応できます。

CO₂削減など環境負荷を低減できる

バイオスティミュレーションは、大規模な機械を長時間動かしたりする必要がほとんどありません。従来の掘削工法に比べると使用するエネルギーを大幅に減らせるため、CO₂排出量や燃料消費も少なくて済みます。実際に、従来の方法と比べて80%のCO₂削減効果が期待できると報告された例もあります。

重機の稼働による周囲への影響も小さいのが特徴です。騒音や振動の発生といったリスクを抑えながら、微生物の働きを利用して土壌や地下水を浄化できます。

まとめ

バイオスティミュレーションは、地盤中の微生物を活性化させて汚染物質を分解する技術であり、多くのメリットがあります。一方で、浄化に時間がかかることや、汚染の程度や地盤条件によっては分解が不十分となり、再汚染が発生する可能性があるといった課題もあります。

特に土地売買や開発を伴うケースでは、確実性を重視して高コストの掘削処理が選ばれることも少なくありません。こうした状況を背景に開発されたのが、当社の「温促バイオ」です。温促バイオは従来の原位置浄化が抱えていた「時間」と「品質」の問題を同時に解決するしくみを備えており、浄化期間を短縮しつつ再汚染のリスクを減らします。