Solution
自然の機能を活かして水害リスク低減と生物多様性向上を両立
-レインスケープ®-
豪雨時も平時も機能を発揮する雨水の貯留浸透施設

都市部ではゲリラ豪雨や台風による浸水被害が増え、下水道や河川の処理能力を超えてしまうケースが目立っています。舗装面の拡大や気候変動の影響もあり、従来の排水設備だけでは対応が難しくなっているのが現状です。

当社が開発した「レインスケープ®」は、雨水を一時的にためて地下へ浸透させ、植栽や土壌の力で水を浄化し、再利用まで行えるしくみです。本記事では、このレインスケープ®の特徴や効果、実際の導入事例についてわかりやすく紹介します。

レインスケープとは

近年、都市ではゲリラ豪雨や台風による水害が増えています。道路や駐車場がアスファルトで覆われているため、雨水が地面に染み込みにくくなり、下水道に一気に流れ込んで溢れるリスクが高まっているのです。気候変動の影響もあり、国や自治体は雨を地中に浸み込ませるしくみや下水への流入を抑える対策を急いでいます。

当社の「レインスケープ」は、こうした問題に応える新しいしくみです。雨水を一時的に溜めて地中へ浸透させるだけでなく、植えた植物が汚れを浄化したり、溜めた水を庭や植栽の散水に再利用したりできます。豪雨時には下水や川への負担を減らし、普段は景観づくりや生き物のすみかとしても役立ちます。

当社では現在、レインスケープの効果を実際の降雨データで検証し、どのくらい流出を減らせるか、どの程度水質を改善できるかを数値で確認しています。さらに、より多くの場所で活用できるよう、機能を強化する研究も続けています。

レインスケープの効果と性能

レインスケープ®は大雨時の流出抑制だけでなく、雨水の水質改善や地下への浸透促進など、さまざまな効果を発揮します。ここでは実際の豪雨で確認された効果や、水質改善・活用のしくみについてご紹介します。

降雨時の流出抑制効果(43%削減の実績)

2019年10月の台風21号による豪雨では、通常1か月分の雨(219mm)がわずか半日に降り注ぎ、千葉県印西市の竹中技術研究所では約2,500㎡の集水域に12時間で548m³もの雨水が到達しました。

しかし「レインスケープ®」の設置により、雨水の流出量を約43%も抑制することに成功しています。なお断面図に示す集水域全体の貯留浸透能力は、日本建築学会発行の『雨水活用技術規準』が推奨する蓄雨高*¹100mm/m²を達成しています。

  • *1 「蓄雨」は、建築とその敷地にできる限り雨を貯めることを推奨する概念で、蓄雨高100mmとは、降雨時間に関係なく、敷地に降った100mmの雨を貯めることができる能力があることを意味しています。
集水域全体の断面図

水質改善と地下浸透のしくみ

レインスケープ®を導入すると、大雨のときだけでなく、普段のときにも水の流れを健全に保つことができます。

地下部のしくみを簡単に説明します。

① 屋根や敷地から集めた雨水がレインスケープへ流入する。(集水の過程による汚れも含めて流入する)
② レインスケープ内で水質が改善する。(懸濁物質、有機物、窒素、リン等の除去)
③ 一部の雨水を回収し、貯留槽や修景池などで貯留させる。
④ 植栽への散水などに活用する。
⑤ 貯留しない雨水は、地下へ浸透させる。

まず建物の屋根や敷地に降った雨がレインスケープに集まります。その過程で雨水に混ざった泥や落ち葉、栄養分(窒素やリンなど)が土や植物によって取り除かれ、水がきれいになります。

きれいになった水の一部は敷地内のタンクや池にためて、植木や庭の水やりに活用します。残った水はそのまま地面にしみ込み、地下水を補います。こうした流れによって、雨水を無駄にせず自然に循環させることができるのです。

植栽空間としての価値

レインスケープ®は雨水を処理するだけでなく、都市の空間に新しい価値を生み出します。景観や憩いの場づくり、生態系の回復、暑さ対策といった役割も果たすことができ、街全体の魅力を高めるしくみとして活用できます。

景観形成と憩いの場の創出

レインスケープ®は地面に水を通しやすい土や砂を敷き、地域に合った植物を植えることで、建物のまわりや歩道に心地よい緑の空間をつくります。つまり、雨水を処理するだけの場所ではなく、四季の変化を感じながら人が立ち寄って過ごせる憩いの空間としても活用できるのです。

緑が加わることで建物や施設の印象もやわらぎ、地域全体の魅力や価値の改善にもつながります。

生物多様性の保全

植栽には土地の環境に合った植物や土壌に適した種類を選ぶことで、都市に自然の息吹を取り戻せます。こうした工夫によって、都市化で減ってしまった昆虫や小鳥が戻ってきやすい環境が生まれ、街の生態系がより豊かになるでしょう。

景観的な価値にとどまらず、生物多様性を支える基盤となり、都市生活に自然との調和を取り入れる役割を担います。

暑熱対策・気候変動への適応

植物は水を吸い上げて蒸発させたり、木陰をつくったりすることで、周囲の温度を下げる働きがあります。アスファルトやコンクリートが多い街では夏の暑さが厳しくなりますが、緑があると地面や空気の温度が下がり、屋外でも過ごしやすくなるでしょう。

さらに、レインスケープ®は雨水を地中にしみ込ませるため、暑さ対策だけでなく大雨への備えにもなります。高温と豪雨の両方に対応できる、安全で持続可能な都市デザインといえるでしょう。

環境教育・地域連携の促進

レインスケープ®は、雨水がどのように集まり、きれいになり、再び使われるのかを実際に見て学べる施設です。子どもたちにとっては環境学習の教材になり、地域のイベントと組み合わせれば自然とのつながりを体験的に学ぶことができるでしょう。

また、住民が植栽の手入れや活動に参加することで交流が生まれ、防災や環境への理解も深まります。知識として学ぶだけでなく、体験を通じて持続可能な社会の大切さを実感できる場となり、地域づくりにも役立ちます。

活用事例

レインスケープ®はさまざまなところで導入が進んでおり、水質改善や雨水の再利用、景観づくりなどで成果をあげています。ここでは代表的な事例を取り上げ、効果と活用方法をご紹介します。

事例① 修景池への流入水の水質を改善

降雨や斜面(写真外右側に位置)を流れ落ちてくる地表水をレインスケープで透過させることで、修景池への流入水の水質を改善しました。



事例② 屋根に降った雨水を植栽帯で貯留浸透・浄化し灌水にも活用

雨どいから集めた雨水を窪地状の植栽帯に導き貯留浸透や水質浄化をはかるとともに、植栽への灌水に活用することで、水の使用量を削減しました。また、長期的に植物の成長をモニタリングし、レインスケープに適した植物の見極めも行っています。



事例③ 雨を見える化して、「雨も愉しむ庭」を創出

屋根に降った雨をガーゴイルと雨受けにより見える化し、雨も愉しむ庭としました。雨受けで受けた雨水は、レインスケープに導かれ、貯留浸透することにより、流出抑制、汚濁負荷軽減、地下水涵養に寄与します。



レインスケープの導入に適した建物

レインスケープ®は雨水をためて浸透・再利用することで、洪水リスクの低減や水質改善、環境負荷の軽減を実現するしくみです。特に、豪雨対策が求められる施設や広い屋外空間をもつ建物、そして植栽や水景を活用する計画において高い効果が期待できるでしょう。

ここでは、レインスケープ®の代表的な導入先をご紹介します。

雨水流出抑制が必要な施設

都市ではゲリラ豪雨や台風による集中豪雨が増え、下水道や河川の処理能力を超えてしまうケースがあります。こうした状況を受けて、条例などで敷地内の雨水流出を抑えることが義務づけられる建物も珍しくありません。

レインスケープ®は雨水を一時的にためて地中に浸透させるしくみにより、下水道や河川への負担を軽減し、浸水被害を防ぐのに役立ちます。特に大規模な商業施設や公共施設など、雨水対策が求められる建物に効果的です。

広い屋外スペースをもつ施設

大きな駐車場や構内道路など、舗装面の広い施設では雨水が地面にしみ込まず、一気に流れ出してしまうことが問題になります。レインスケープ®を導入すれば、こうした場所でも雨水を効率よくためて浸透させることができ、敷地全体の水の流れを健全に保てます。

さらに、緑や景観デザインと組み合わせれば、利用者にとって心地よい屋外空間をつくり出せます。

植栽や修景池を活用する建物

レインスケープ®で処理した雨水は、きれいになった状態で再び利用できます。植栽への水やりに活用すれば上水の使用量を減らせ、修景池にためれば水質改善や景観の向上にも役立つでしょう。

さらに、地域の環境に合った植物を選ぶことで、生態系を守り昆虫や小鳥が戻りやすい環境をつくることも可能です。




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まとめ

レインスケープ®は、大雨のときには雨水を一時的にためて地中に浸透させ、浸水被害を防ぎます。普段は雨水をきれいにして植栽や修景池に活用でき、景観や生態系の維持にも役立ちます。

実際に、洪水対策と環境保全を同時にかなえるしくみとして、商業施設や公共施設、住宅地などで導入が広がっています。今後も自然の力を活かした技術開発を通じて、水と緑が共存する持続可能な都市環境の実現に取り組んでいきます。