大阪

大阪梅田ツインタワーズ・サウス

Completion Year2022
Project Story
大阪のまちのにぎわいを創出する

関西有数のビジネス・商業エリア、大阪梅田。2022年、JR大阪駅南側の通称「ダイヤモンド地区」に新たなランドマーク「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」が誕生しました。 百貨店が入る低層棟と、オフィスなどが入る高層棟からなる大型プロジェクトで、なだらかなカーブを描きながら240メートルも続く市松模様の「オーガニック・ファサード」がひときわ目を引きます。

「オーガニック」の名の通り、低層棟のバルコニーには兵庫県六甲山系の植物が植えられており、四季の移ろいを感じることができます。また、明るさなどを個別に制御できる照明器具を用いたモーションライティングが施されており、さまざまな演出で夜のまちを彩ります。

オーガニック・ファサード
オーガニック・ファサード


当社がかかわってから足掛け10年を要したこのプロジェクトには、完成に至るまで、いくつものハードルがありました。

   

地下街のにぎわいを地上へ、さらに梅田のまち全体に

プロジェクトの検討が始まった2013年ごろ、大阪梅田は、日本最大級の規模を誇る地下街を中心ににぎわいが広がり、地上の人の流れはそれほど多くありませんでした。 「にぎわいをまち全体に拡げたい」というお客様の想いに応えるため、「梅田木立」というコンセプトを掲げ、プロジェクトはスタートしました。

「梅田木立」には、木の根が水や養分を吸い上げ、枝葉を伸ばし、やがては森になるように、新たな建物によって地下のにぎわいを地上に、さらにまちに拡げたいという想いが込められています。

「梅田木立」の骨格を担うのが、「3層歩行者ネットワーク」です。地下、地上、空中デッキという3つの層での人の流れを促すため、建物だけでなく、3層をつなぐ縦の動線や周辺の環境整備にも取り組みました。 地上と地下をつなぐ「都市の吹き抜け」を設け、地上レベルでは歩道を拡幅するとともに散在していた駐輪場を集約して歩行者空間を拡げました。空中デッキには、人々が都市のなかでくつろげる場所をつくりました。

3層歩行者ネットワーク



「つなぎ目」がない建物をつくる

大阪梅田ツインタワーズ・サウスのように複雑な形をしている建物の場合、地震時に「ねじれ」が生じることで建物がさらに大きく揺れる恐れがあります。そのため、構造体(建物)を直方体などの単純な形に分離して、ねじれの発生を防ぐ方法がよく用いられています。 ところが、この方法にはデメリットもあります。構造体を分離した部分には、人や物が行き来できるよう、隙間をふさぐ「エキスパンションジョイント」を設けますが、地震時に大きく動きます。そのため、その上に什器や設備機器などを置くことができません。大阪梅田ツインタワーズ・サウスでは、百貨店の売り場レイアウトなどが大きな制約を受けることになります。

「つなぎ目」がない建物をつくる

エキスパンションジョイントを使わずに、地震に強い建物をつくる。この目標を達成するために採用したのが、当社が新たに開発した「Vフレーム制振構造」です。「Vフレーム制振構造」はオイルダンパー、ベルトトラス、レイルビームなど、さまざまな要素技術を組み合わせたもので、複雑な形をしている建物の地震時のねじれを防ぎ、揺れを小さくすることが可能です。

Vフレーム制振構造

この技術により、エキスパンションジョイントがない、使い勝手のよい空間を創造することができました。また、建物から「つなぎ目」がなくなったことで、低層棟の外装デザインや植栽、照明のレイアウトに連続性を保つことができました。


外観

百貨店の「営業を止めずに」建て替える

この地には道路を挟んで2つの建物がありました。大阪梅田ツインタワーズ・サウスはこれらを建て替えるものでしたが、建物内にある百貨店の営業を止めないことが絶対条件でした。これを克服するために、約8年間の工期を大きく2つに分け、24時間体制、5つのステップで百貨店の引越しや地下街のルート変更をしながら工事を進めました。

百貨店の「営業を止めずに」建て替える

道路をまたぐ1つの建物に建て替える

大阪梅田ツインタワーズ・サウスの特徴のひとつは、2つの建物を「幅27メートルもの道路をまたぐ1つの建物」に建て替えることです。もちろん、道路に柱を立てることはできないので、道路上空の部分には、吊り橋のように柱やブレースで建物を引っ張って支える、「吊り構造」が採用されています。

吊り構造

ここで課題になるのが、「吊り構造」が完成するまでの間、どうやって建物を支えるか。通常の建物のように柱で支えようとすると、下層階に過大な力がかかってしまいます(下図左)。そこで「施工中、あえて吊り柱を切断する」という新たな工法を考案しました(特許取得済み)。

吊り構造

数フロアごとに、道路上空部分の力(重さ)を両隣の建物に伝えるための仮設ブレースを設置します(上図中央)。その後、柱を切断すると、それまで下層階に伝わっていた力の一部が両隣の建物に移ります。吊りブレースを含む「吊り構造」が完成したら、柱をつないで建物を吊り上げ、仮設ブレースを撤去します(上図右)。

もう一つの課題は、地上190mに及ぶ高層棟の施工中に、建設資材を落下・飛散させないこと。そのため、「竹中新生産システム」の要素技術の一つであるセルフクライミング型の養生ユニットを建物の外周部に設置しました。
鉄骨建方を行う前に養生ユニットがせり上がることで、安全と安心を常に確保することができました。

セルフクライミング型の養生ユニット
セルフクライミング型の養生ユニット


        

当社のまちづくりはこれからも続く

屋上庭園

大阪梅田ツインタワーズ・サウスの完成からほぼ3年。現地を訪れると、地上のにぎわいが増したように感じます。緑豊かな低層棟の屋上庭園にはオフィスワーカーや来訪者が憩い、季節を感じられる草花とともに、鳥や昆虫を見かけることもあります。

大阪梅田ツインタワーズ・サウスの周辺には、半世紀をかけて当社がかかわってきた数多くの建物があります。当社は現在もJR大阪駅の北側にある「うめきた地区」で、2028年春の全体まちびらきに向け、都市公園の整備や分譲マンションの施工などに取り組んでいます。


 
全景
              



担当者の声

設計担当:梅田 善愛

「梅田木立」には、ただ単に建物を建てるのではなく、地下の活力を人の流れとともに地上に導き、豊富な緑やオープンスペースを活かした「にぎわいのあるまちをつくる」という想いが込められています。多くの人がそぞろ歩きを楽しみ、心地よく過ごすことができる、大阪梅田エリアの歩行者ネットワークの核になることを願っています。

設計担当:梅田 善愛




設計担当 :谷地 建児

「3層歩行者ネットワーク」で心がけたのは、まちづくりのデザインに対するお客様や行政の価値観や想いを一つにまとめることでした。歩道の拡張でできたスペースに広場をつくり、緑を増やし、カフェを配置することで人が回遊する。大阪梅田エリアの発展に貢献できたとしたら、この上ない喜びです。

設計担当 :谷地 建児




設計担当 :鈴木 星穂

日々新たな発見があるよう、絶えず印象が変化する建物にしたいと思いました。「オーガニック・ファサード」では四季折々の花を楽しめるほか、影のできかたで表情が刻々と変化します。高層棟や低層棟の内部でも、光の取り入れ方などを工夫することで、時の変化を感じることができます。

設計担当 :鈴木 星穂




施工担当 :古場 覚司

最も苦労したことは、営業中の百貨店や地下街だけでなく近接する地下鉄に影響を与えないこと、そして道路をまたぐ建物を安全かつ交通の妨げにならずに施工することでした。施工に関わるすべての人が一致団結することで、大きな支障なく竣工できたことは私の誇りです。

設計担当 :鈴木 星穂




施工担当 :松田 繁

1日250万人が行き交うビジネスと商業の中心地で、安全と安心を確保しながら「大阪の真ん中をつくる」工事を完遂できたこと、また、当社が約半世紀にわたってつくってきた大阪梅田のまちづくりに関われたことを幸せに思います。

施工担当 :松田 繁




施工担当 :山本 啓介

8年に及ぶ都市部での工事ということもあり、24時間ひと時も気が抜けませんでしたが、このプロジェクトの成功を通じて、当社のまちづくりの伝統やお客様の信頼を継承できたと思っています。これからも当社はまちづくりを通じて、地域とともにさらなる歩みを続けていきます。

施工担当 :山本 啓介





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