再エネの余剰電力を“冷房エネルギー”にアミティ舞洲で新システムの実証試験を開始

2025年7月1日
株式会社竹中工務店

竹中工務店(社長:佐々木正人)は、大阪公立大学(学長:櫻木弘之)、三菱重工サーマルシステムズ株式会社(社長:伊藤喜啓)、関西電力株式会社(社長:森望)、株式会社安井建築設計事務所(社長:佐野吉彦)および東京大学(総長:藤井輝夫)と共同で、令和5年度から環境省「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に取り組んできました。その一環として、季節間蓄熱が一般的な帯水層蓄熱システム(ATES:Aquifer Thermal Energy Storage※1)をベースに、新たに世界初の多重蓄熱機能および短周期蓄熱・放熱機能を備えた、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の余剰電力吸収システムを開発しました。
再エネ発電は天候等で発電量が変動し、また季節により需要も変動するため余剰電力が発生し、これが再エネ普及の足かせとなっています。本システムは余剰電力を活用し、電気エネルギーを冷房に直接使える熱エネルギーとして大量かつ安価に蓄え、このエネルギーをわずかな電力で汲み出して使えるシステムです。「余剰再エネ電力の有効活用と電力の需給調整」という脱炭素社会に向けた2つの課題解決に資する画期的な技術です。
本システムを大阪市舞洲障がい者スポーツセンター(アミティ舞洲)の既設ATESに導入し、2024年11月から2025年3月までの暖房運転で貯留した13℃の地下水の中心部に、2025年4月から6月までの余剰再エネ電力※2を用いて5℃まで冷却した地下水を、追加で貯留しました。そして7月1日(火)から、ゼロカーボン電力により5℃で貯留した地下水を直接冷房に活用する実証試験を開始します。竹中工務店は、システムの統合、実証実験の推進、既に実用化された季節間蓄熱が可能な帯水層蓄熱システムとともに、今回開発した電力吸収機能を保有する帯水層蓄熱システムの実プロジェクトへの提案、採用に向けて取り組んでいきます。

  • ※1地下にある帯水層(透水性が高く地下水で満たされている地層)を活用し、冷暖房による排熱を熱エネルギーとして蓄え、再利用する地中熱利用システム。夏季には冷熱井から取り出した冷水を建物の冷房に利用し、その際に温められた水を温熱井に蓄える。冬季にはその温熱井から取り出した温水を暖房に利用し、使用後の冷やされた水を冷熱井に戻すというサイクルにより、年間を通じたエネルギーの効率的な運用が可能となる。
  • ※2全国に先駆けて再エネ設備が普及している九州エリアにおいて、卸電力取引市場の約定価格が0.01円/kWhとなる時間帯に、余剰再エネ電力が発生していると見做す。実際に使用する電力は、施設の契約電力である。

余剰再エネ電力吸収システムの概要

太陽光発電や風力発電などの再エネは、環境負荷が小さく持続可能な発電手段として期待されていますが、天候によって発電量が変動するため、電力需給のバランス確保が難しいという課題があります。また、春や秋は空調による電力需要が小さいため、発電能力が需要を上回り余剰電力が発生しやすくなります。
今回開発したシステムでは、季節間蓄熱機能を持つATESに、世界初の多重蓄熱機能や短周期蓄熱・放熱機能を付加することで、省スペースかつ環境負荷の少ない形で、余剰再エネ電力問題の解決に資するシステムを実現しました(図1)。
本システムでは、従来のATESに、

  1. 余剰再エネ電力のリアルタイム情報に基づきヒートポンプ熱源機を使って冷熱井に5℃で貯留する機能
  2. 5℃で貯留した地下水により直接冷房できる機能

の2つを新たに構築することで、蓄電池や水素に比べてコストを抑えながら、余剰再エネ電力を効果的に吸収することが可能です。
アミティ舞洲では、2025年4月2日から余剰再エネ電力の吸収運転を開始し、6月9日までに約140kWで累計270時間の吸収運転を実施、5℃まで冷却した地下水10,000m³を冷熱井に貯留しました。7月1日から5℃で貯留した地下水を直接利用した冷房運転を開始し、「見做し放電効率(蓄電池と見做した時の充放電効率)」を指標として評価します。
・見做し充放電効率目標:70%(直接冷房に利用する揚水温度上限値13℃の場合)

図1 実証試験の流れ
図1 実証試験の流れ

事業実施体制

事業実施体制