鉄道の廃レールをアップサイクルした金属3Dプリンター製ベンチを設置
2025年9月5日
株式会社竹中工務店
竹中工務店(社長:佐々木正人)は、西日本旅客鉄道株式会社(社長:倉坂昇治、以下JR西日本)等と共創し、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)会場への乗換駅であるJR大阪環状線 弁天町駅に、金属3Dプリンターを活用して製作した「ルーレベンチ」を設置しました。屋外の公共空間に設置された金属3Dプリンターによる製作物としては、長さ6.2m・幅1.5mと国内最大級の事例となります。
このベンチのフレーム材料には、JR西日本の鉄道の廃レールを溶解・成形したステンレス鋼溶接ワイヤを一部使用しており、金属スクラップを用途や機能の異なる製品にアップサイクルする循環型社会の実現に向けた取り組みです。
竹中工務店 YouTubeチャンネル「ルーレベンチ / Roulé Bench」
「ルーレベンチ」について
(1) ベンチ概要とデザインコンセプト
「ルーレベンチ」は、廃レールを溶解・成形した材料を用いて金属3Dプリンターでフレームを製作し、座面に近隣地域から採取した間伐材を枕木状に加工して取り付けた長さ6.2m・幅1.5mのベンチです。
使われなくなった電車のレールを、人のためのレールへと再生させた「ルーレベンチ」は、反転したレールと枕木が、緩やかに形を変えながら人の居場所になります。「ルーレベンチ」のネーミングにおいても、「レール」の反転を表現しつつ、フランス語 “Roulé”の持つ「循環」という意味を込めています。


(2) 鉄道の廃レールを3Dプリンター材料の溶接ワイヤに再生
「ルーレベンチ」のフレームは、WAAM方式(※1)というアーク溶接により金属を積層していく方式の金属3Dプリンターを用いて製作しました。フレームの材料となるステンレス鋼溶接ワイヤの一部は、鉄道の廃レールを溶解・成形してつくられたものです。
金属スクラップを溶接ワイヤに再生することで、3Dプリンターの自由な造形性を生かしたさまざまな用途や機能の製品に生まれ変わらせることが可能になります。「ルーレベンチ」は、線路としての役割を終えたレールを人の居場所になるベンチに再生させ、金属資源を循環させる試みです。

(3) 金属3Dプリントならではの設計・製作技術
「ルーレベンチ」の設計および製作にあたっては、金属3Dプリンターによるものづくりの新しい取り組みを実施しました。
フレームの形状決定の際には、構造解析の繰り返しにより合理的な形状を生成するトポロジー最適化技術を用いて、座面を支えるフレームの有機的な形状を導き出しました。オーバーハング角度(※2)の検討や、分岐部分の造形性確認などの事前検討を経て、実際の3Dプリンティングを行いました。
長さ6mを超えるフレームは分割して造形し、職人の手による組み立て溶接を行いました。造形されたピースを一体化して、国内最大級の金属3Dプリンター製ベンチフレームが完成しました。



(4) 座面には六甲山の間伐材を使用
「ルーレベンチ」の座面は、六甲山で採取した間伐材ヒノキを使用しており、関西地域での森林資源の循環に配慮しています。また、植物由来のフラン樹脂加工技術(※3)を施すことにより防腐化・高耐久化しています。

「ルーレベンチ」製作の共創体制
廃レールの再生や金属3Dプリンティング等の技術については、それぞれの分野の専門企業との共創により、製作を進めました。
共創体制

代表企業
発注者 | 西日本旅客鉄道株式会社 https://www.westjr.co.jp/ (本社:大阪府大阪市、代表取締役社長兼執行役員:倉坂昇治) |
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設計・製作統括・設置 | 株式会社竹中工務店 https://www.takenaka.co.jp/ (本社:大阪府大阪市、取締役社長:佐々木正人) |
協力企業
金属3Dプリンティング | シモダフランジ株式会社 https://shimoda-flg.co.jp/ (本社:兵庫県相生市、代表取締役社長:下田信治) |
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金属材料提供・ 廃レール再生 |
大同特殊鋼株式会社 https://www.daido.co.jp/ (本社:愛知県名古屋市、社長:清水哲也) |
組立溶接 | 日本ニューロン株式会社 https://www.neuron.ne.jp/ (本社:京都府精華町、代表取締役:岩本泰一) |
木材コーディネート | SHARE WOODS. http://www.share-woods.jp/ (本社:兵庫県神戸市、代表:山崎正夫) |
木材硬質化技術 | 株式会社フランウッドhttps://furanwood.com/ (本社:岡山県津山市、代表取締役:小原冨治雄) |
サイン施工 | 株式会社 BIKOhttps://www.biko-sign.jp/ (本社:東京都中央区、代表取締役:平木達人) |
今後の展望
竹中工務店は、「ルーレベンチ」の設計・製作で得た知見をもとに、金属3Dプリンティング技術の建築部材への適用を目指します。また、金属のアップサイクル技術を通して、循環型社会の実現に向けた取り組みを推進していきます。
- ※1WAAM方式
Wire Arc Additive Manufacturingの略称。アーク溶接技術を応用し、金属を溶着・積層していく金属3Dプリンティング手法 - ※2オーバーハング角度
3Dプリンティングの際に、造形物が空中にせり出す角度を指す。角度が大きすぎると支えが無くなり造形が困難になる。 - ※3フラン樹脂加工技術
木材にフルフリルアルコールを含浸させ、化学反応によって木材内部にフラン樹脂を生成させる技術。この加工により、木材の耐久性、耐腐朽性、寸法安定性が向上し、ハードウッドのような性質を持つようになる。