製作効率化と汎用性の向上を実現した新タイプのFMS合金制振ダンパーを開発長瀬産業東京本社ビルに初適用
2025年12月3日
株式会社竹中工務店
竹中工務店(社長:佐々木正人)と物質・材料研究機構(理事長:宝野和博、以下NIMS)は共同で、巨大地震で発生する長周期・長時間の揺れから高層建築を守る、新タイプの制振部材「H形断面ブレース型FMS合金制振ダンパー」を開発しました。
本ダンパーは、優れた疲労耐久性を持つFMS合金製※1のH形断面の芯材を補剛鋼管で覆ったシンプルな構成が特徴です。従来の「十字断面ブレース型」と同等の地震エネルギー吸収性能を有しながら、構造を簡素化しました。さらに、FMS合金の優れた疲労特性を生かす適切な溶接条件範囲を確立することで、特殊な設備を必要としない一般的な鉄骨製作工場での製作を可能にしました。これらにより、FMS合金制振ダンパーの製作効率化と汎用性の向上を実現しました。
本ダンパーは、東京都中央区に建設中の長瀬産業株式会社東京本社ビル(2026年6月竣工予定)に初適用しました。
- ※1FMS合金:Fe-Mn-Si系合金
Fe(鉄)を主成分として高濃度のMn(マンガン)やSi(ケイ素)などを添加した、疲労耐久性に優れる鉄系形状記憶・高耐疲労合金。指定建築材料として2022年に国土交通大臣認定を取得。
開発の経緯
竹中工務店とNIMSは、淡路マテリア株式会社などと共同で、FMS合金の特性を生かしたブレース型制振ダンパーの開発を継続的に行ってきました。
・2019年:平板形の芯材をモルタルと鋼管で補剛した「平鋼断面ブレース型」を開発
・2023年:エネルギー吸収性能を約2倍に高めた「十字断面ブレース型」を開発
技術の特徴
今回開発した「H形断面ブレース型」は、FMS合金の優れた疲労特性と座屈耐性を生かし、シンプルな部材構成の採用と適切な溶接条件範囲を確立したことにより、特殊な設備を必要としない一般的な鉄骨製作工場での製作を可能にしました。
本ダンパーは、一般的な鋼材ダンパーと比較して約7~10倍の疲労寿命※2を有しています。疲労耐久性を考慮し専用溶接材料でH形断面に溶接組み立てしたFMS合金製の芯材は、ひずみ硬化により変形時にひずみを分散し、局所的なひずみ集中による疲労き裂の進展を抑制します。そのため、シンプルな座屈補剛の構成でも優れた疲労寿命を発揮できます。
この技術の汎用性向上により、大地震時の対策技術として、より幅広い建築物における事業継続性の向上に貢献します。
- ※2日本建築学会 鋼構造制振設計指針に示される一般の鋼材を用いた各種制振ブレース(鋼材種、芯材断面、補剛機構は限定しない)の平均寿命にて整理した疲労曲線と同一ひずみ量にて比較。
各者の役割
<竹中工務店>
本ダンパーの芯材及び補剛鋼管を最適設計し、構造性能評価を行いました。本ダンパーの疲労試験において、開発材料の耐疲労性能を生かした良好な変形性能を確認しています。
<NIMS>
FMS合金の耐疲労性能を最大限に生かすため、本合金の専用溶接材料(溶接ワイヤ)による適切な溶接条件範囲を設定しました。
長瀬産業東京本社ビルに初適用
長瀬産業東京本社ビルは高さ62.95m、地上14階建ての制振構造の建物です。大地震を受けても事業継続が可能なオフィスを実現するために、今回開発した新型ダンパーと粘性ダンパーなどを組み合わせ、各階に配置しました。執務空間を阻害しないコンパクトなスペースで最大限の制振効果を発揮することを考慮し、本ダンパーを18基適用しています。
<建物概要>
| 建築主 | 長瀬産業株式会社 |
|---|---|
| 建築地 | 東京都中央区日本橋小舟町 |
| 延床面積 | 26,218.86㎡ |
| 建物用途 | 本社事務所 |
| 構造 | S、RC、SRC造 |
| 規模 | 地下2階、地上14階 |
| 設計・施工 | 竹中工務店 |
| 竣工 | 2026年6月予定(建物本体工事) |
